研究課題/領域番号 |
18K11541
|
研究機関 | 統計数理研究所 |
研究代表者 |
齋藤 正也 統計数理研究所, データ同化研究開発センター, 特任准教授 (00470047)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | インフルエンザ / 感染者数推定 / 数理モデル / ベイズ推定 |
研究実績の概要 |
本研究はインフルエンザ年間総感染者数の推定とそれによる介入政策評価のための機構(mechanistic)モデルの構築を目標に据えている.感染症サーベイランスでは,一部の重篤で感染者が限られている疾患を除き定点医療機関による報告数のみが記録される,標本調査になっている.インフルエンザの感染報告数も定点報告によるもので総感染者数の把握は何等かのモデル・補助情報による推定が避けられない.特にインフルエンザ定点は小児科に重点配分されているために,捕捉率の年令以前性が重要となる.1年目にあたる本年度は(年間の推移ではなく)総感染者数のみ注目して,特にワクチンによる擾乱が少ない2009年から10年新型流行時のデータを参照して,血清陽性率の上昇から定点観測の年齢別捕捉率を割り出し,そこから総感染者数を推定することの妥当性を評価した.翌シーズンとの比較でほぼ一致したことからこの手法は妥当と考えられる.これを踏まえて,さらに翌年のデータも参照し,ワクチン接種による陽性率上昇も考慮した推定も行った.今後,推定した捕捉率をもとに毎週の感染者数を復元し,動力学的に流行の分析や介入の評価を行う予定である.なお,血清データのみに基づくワクチン効果を表現するパラメータの推定値には大きな不確定性が存在することがわかった.感度解析によるとワクチン効果の不定性は累積感染者数の推定には大きな影響を与えないが,動力学的な分析には影響が大きいと考えられる.文献情報などを用いてワクチン効果の制約を加える方法の探索が次年度の課題のひとつになると考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は血清調査データを使って感染者割合および定点捕捉率が推定できることを検証した.当初の計画通りに実行できたので,順調な進行とした.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は総感染者数の推定を行うために定点による感染者捕捉率を血清調査から推定した.上述のとおり捕捉率の推定ができたので,これを用いて毎週の定点報告を総数に復元し,動力学モデルを用いたな流行の記述に取り掛かる予定である.なお,報告率の推定にはワクチン接種効果の推定も含まれる.このパラメータは報告率の推定値への影響は限定的ではあるものの,推定値が不安定であることが確認された.動力学的な流行分析・介入効果評価には影響が表れると考えられる.観察研究などを参照してワクチン効果に制約を加えることにも平行して取り組みたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究用の計算機およびソフトウェアの購入を見送ったために次年度以降使用額が生じた.見送った理由は,弊所のスーパーコンピュータの刷新に伴い利用可能なCPU時間が増大したこと,別プロジェクトで使用権がある計算機の余剰時間が生じたことによる.繰り越し予算は,研究打ち合わせのための渡航回数の増加,インターネットによる今季流行状況のアンケート調査に充当することを検討している.
|