研究課題
本研究は、選択的スプライシング(AS)や選択的翻訳開始点(ATI)によって、アイソフォームレベルでの細胞内局在部位の変化により機能調節を行う遺伝子の新規発見及び機能の解明を目指すものである。本年度は、より信頼性の高いデータを用いた解析を行うため、最新のデータへの更新を行うと共に、少なくともmRNAレベルでの確認が取れているアイソフォームのみを扱い、18841遺伝子(58643アイソフォーム配列)で構成されるデータセットの再構築を行った。このデータセットに対し、昨年度までに構築した独自手法であるミトコンドリア移行シグナル(MTS)予測法MitoFatesと既存手法のERシグナルペプチド(SP)予測法SignalP5.0を用いた局在化シグナルの欠失/獲得予測に基づいた探索パイプラインを用い、アイソフォームレベルで局在部位の変化を起こす遺伝子の網羅的探索を行った。その結果、ミトコンドリアに局在するアイソフォームを持つ可能性のある1268遺伝子を特定した。そのうち、741遺伝子については、アイソフォーム間で細胞内の局在部位の変化が起こる可能性があることがわかった。一方、SPを持つアイソフォームについては、3407遺伝子中、1055遺伝子において、アイソフォーム間で局在の変化が起こる可能性があることがわかった。このような傾向は、以前のデータセットに対する解析と変わらないが、より多くのアイソフォームレベルで局在部位の変化を起こす遺伝子候補を得ることができた。さらに、局在変化する可能性のあるアイソフォーム間でのドメイン構成の変化を調べたところ、MTSを持つ遺伝子、SPを持つ遺伝子ともに、約57%の遺伝子が、ドメイン構成の変化を起こすアイソフォームを生じている可能性があることがわかった。そこで、疾患関連変異かつ立体構造情報を持つ遺伝子に注目し、詳細なドメイン構造変化の解析を進めている。
3: やや遅れている
これまで、深層学習を用いたMTS予測の性能の向上の検証、MTS予測とSP予測法を組み合わせた、局在変化を起こすアイソフォーム探索のためのパイプラインの開発が完了している。そして、開発したパイプラインにより、ヒトの遺伝子に対し、ASやATIによってMTSやSPの欠失/獲得が生じ、局在部位の変化を起こすアイソフォーム候補の網羅的探索を行った。その結果、局在変化を起こすアイソフォームを持つ遺伝候補として、それぞれ、741遺伝子、1055遺伝子を見出した。また、これら遺伝子の半数以上は、局在変化を起こす可能性のあるアイソフォーム間で、ドメイン構成が変化していることもわかっており、立体構造情報を持つ遺伝子に注目し、詳細なドメイン構造変化の解析を進めている。研究計画では、本年度中に、有用な候補を見出し、実験的検証を行う計画だったが、新型コロナウイルスの影響もあり、実験的検証を行う共同研究を見直す必要が生じており、また、データセットの再構築と再解析も行ったため、研究計画の遅れ、変更が生じている。
開発した探索パイプラインを用い、MTSおよびSPの欠失/獲得によりアイソフォームレベルで局在部位の変化を起こす遺伝子の網羅的探索を行った結果、局在変化を起こし、かつドメイン構成の変化が起きる可能性のあるアイソフォームを持つ遺伝子を、それぞれ、420遺伝子、606遺伝子、見出すことができた。これらは、局在変化と共に、機能変化を起こし、多機能性を示すタンパク質である可能性がある。また、ミトコンドリアは、様々な疾患とも関連性が高い。そこで、上記のMTSの欠失/獲得によって、局在変化を起こし、かつドメイン構成の変化が生じる可能性のある420遺伝子に対し、特に疾患関連変異と立体構造との両方の情報を持つ遺伝子に注目し、詳細なドメイン構造変化と機能変化との関連性についての解析を進めていく。
研究計画では、有用な候補を見出し、実験的検証を行う計画だったが、新型コロナウイルスの影響もあり、実験的検証を行う共同研究を見直す必要性が生じた。さらにデータセットの再構築を行い、再解析を行った。このため、研究計画の遅れ、変更が生じ、次年度使用額が生じた。そこで、より効率的に、局在変化を起こすアイソフォームの多機能性を解析するため、ミトコンドリア移行シグナルの欠失/獲得によって、アイソフォームレベルでの局在変化を起こし、かつドメイン構成の変化が生じる可能性のある420遺伝子にターゲットを絞る。そして、当該助成金は、詳細なドメイン構造変化と機能変化との関連性についての解析を行うためのタンパク質機能解析ソフトのライセンス費用に用いる。
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