研究課題/領域番号 |
18K11580
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
水谷 晃三 帝京大学, 理工学部, 講師 (30521421)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教育環境 / ユーザインタフェース / プロジェクションマッピング / デバイスレス |
研究実績の概要 |
本年度の研究活動では,課題研究システムにおいて(1)様々な机の形状や向きを考慮した机の認識およびUI(User Interface)の投影手法,(2)運動視差による立体視による三次元オブジェクトの投影方法について検討・試作を行なった. 本研究課題では,1つのプロジェクタで複数の受講者の学習机へUIを投影するための方法について研究している.プロジェクタを使って机にUIを投影することで作業者を支援するシステムは1980年ごろから研究され今日に至るが,本研究では複数の学習机へのUIの投影を複数のプロジェクタで行うのではなく,1つのプロジェクタの投影領域を部分的に使用する点に特徴がある.これにより,学習机のレイアウトに応じて向きや大きさの異なるUIを投影することを可能にする.この仕組みを実現するため,(1)においては,机の形状や向きを認識するための機構に,机の配置状況を識別してこれに応じてUIを制御する仕組みを検討,試作した.例えば協調学習をするとき,グループごとに電子黒板などを設置して情報共有を図ることある.本機構によりシステムが机の配置を認識してこれに適した大きさでUIが表示できることを確認した. 学校教育における教材提示においては,立体構造を正確に把握できることが好ましいケースも存在する.三次元オブジェクトの立体提示方法としてHMD(Head Mount Display)や3Dモニタなどを用いる方法がすでに実用化されている.これらを使うことで,ユーザは三次元オブジェクトを立体的に視認することが可能あるが,重量を伴う装置や特殊なグラスを装着しなければならないため,多くの受講者が日常的に使用するものとしては適していない.そこで(2)の研究では,運動視差により三次元オブジェクトの立体視が可能な方法を本研究環境で実現するための基礎的な研究を行い,システムの試作を通じて検証を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な机の形状や向きを考慮した机の認識およびUIの投影手法については,実現方法の具体的な検討とともにシステムの試作を行った.机の認識方法に関しては,複数の机の領域認識を同時なおかつリアルタイムに行う手法を検討し,試作モジュールの実装を行った.また,それらの複数の領域の形状判定を行った後に,学習者の視点位置を推定したうえで,UIを適切な大きさおよび向きに投影するよう制御する機構を実装した.さらに,(a)机の上方で手を上げ下げするジェスチャを認識することによりUIの表示/非表示を制御する機構,(b)グループワークを想定して複数の机を並べたレイアウトに対する動的な投影制御の機構,についても実装した.これらの実装は計画段階では2020年度に達成する計画であったが前倒して実現することができた.加えて,この成果を含む国際会議での発表を前倒しで行った.これらの成果に加えて,運動視差による立体視による三次元オブジェクトの投影方法について検討・試作を行なった.本方式についても,手法の検討だけではなくシステムの試作を通じて評価を行い,その成果を学会にて発表した.以上から,当初の計画以上の進展が得られている部分もある. しかしながら課題も残っている.例えば机の認識およびUIの投影においては,同時に認識すべき机や学習者の人数が増えると負荷が高くなり正常に動作しないなどの現象が確認された.この問題の解決にはGPUを用いた並列処理を適用するなどの方策が必要である.また,UIの表示/非表示の制御の機構も,センサがとらえた深度値の変化のみを用いてジェスチャを認識する仕組みであるため誤動作が多い.実用化のためには学習者の手の形状を認識するとともに,認識した領域の深度値の変化を正確にとらえる必要がある.これらの残件を踏まえると,研究全体の進捗としては,おおむね順調に進展している程度と判断される.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の成果から,本課題研究の当初の目的は概ね達成できていると考えられるが,前項でも述べた通り実用面では課題が残っている.そこで今後の研究はこの解決のための方法の検討およびシステムの改良を行う. これらに加えて,複数のセンサやプロジェクタを用いてシステムの利用領域の拡大を図る方法についても検討する.これまでの成果における試作システムでは,1つのセンサおよび1つのプロジェクタを用いている.これにより実現される領域の大きさは約2.6m×2.0mの範囲であり,0.6m×0.5mの大きさの天板をもつ学習机を使った場合では4名程度の受講者をカバーできる程度である.この領域を広げ,将来的には教室全体で本環境を使用できるようにするために,複数のセンサおよびプロジェクタを使用する方法を検討していく.そのためには,複数のコンピュータを用いた並列分散処理の実装が必要になると考えられる.各センサに机や受講者のジェスチャを認識するためのコンピュータ(センサノード)を設ける.複数のセンサノードでの処理は同時並列的に行うようにして処理の負荷を分散化する.しかし一方で,その結果を集約してUIの投影に反映させるための仕組みも必要である.センサの数が増えるほどに負荷が増えることが見込まれるため,並列分散処理を効率的に行う仕組みが必要になる.これらを踏まえたモデルを検討すると共に,コンピュータ間の通信プロトコルの仕様についても検討を進める. また,複数のセンサを用いるため,センサとプロジェクタの関係を適切に定義する仕組みが必要である.さらには,複数のセンサノードが同時に処理を行うことを想定したデバッグ環境の整備や諸ツールの開発なども必要になると見込んでいる.これらの検討やプログラムの試作を推進していく計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度は研究が進展したため,その成果を国際会議にて発表するために前倒し支払請求の申請を行った.この申請の際,申請の締切り日に対して実際に費用(旅費)が発生する日までに期間があったため不確定要素が多く,若干余裕をもって前倒し支払請求を行っている.これに加え,2020年3月に予定していた国内学会が新型コロナウィルスの感染拡大に伴いオンライン開催となり旅費等に残額が生じた.これらの理由により次年度使用額が生じた. 2020年度は,研究課題の遂行に必要な研究システムの維持に必要な部品代,ソフトウェア代,そのた保守費用として研究費を使用する計画である.これに加えて2~3回程度の国内学会での発表に研究費を使用する計画である.
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