研究課題/領域番号 |
18K11584
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
松居 辰則 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (20247232)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 教師エージェント / 心的状態の予測モデル / 神経科学的知見 / 学習環境 / インタラクション / 表情認知過程 / 小脳 / 定性的脳機能モデル |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,次の二点を解決することにある.一点目は,人間教師が行う学習時における学習者の心的状態の「変化」の予測モデルの構築である.二点目は,学習者のモチベーションを高める(維持する)ことが可能なヒト型教師エージェント(Pedagogical Agent: PA)による教授行為の適切なタイミングと適切な様態の把握である.これらを同時に解決する方法として,神経科学的知見に基づいた,学習者の心的状態変化を表現するモデルを構築することを目指す.そして,これらの成果として,学習環境に適したPAの設計基盤,具体的にはPAの「笑顔」の表出のタイミングとその様態に関する実装指針を示す.本研究は3年間の計画で,モデル構築(1年目),モデルの検証(2年目),エージェントの設計指針の検討(3年目)という流れで研究を推進する. 本年度(1年目)は「学習環境における表情認知過程を表現する神経科学の知見に基づく脳機能モデルの構築」を目的に,①一般的なモデル記述,②学習環境に依存したモデル記述の2段階に分けて上記のモデル構築に関する研究を行う予定であった. 具体的には,①表情認知過程を表現する定性的脳機能モデルの構築:モデル化する対象は表情認知を実現する脳機能である.例えば,相手の表情動作を認知する際は,初期の動作を知覚し,その動作を予測するという二つのステップが関与している.各ステップはそれぞれ,下後頭回(脳の後頭葉)や小脳の関与が考えられる.部位の機能を定性的枠組みで記述することで,表情認知および表情認知に伴う生体信号生成を実現する脳機能の理解を目指す.具体的には,ヒト型エージェントの表情動作速度の非典型性が表情認知に与える影響に関して各種実験を通して検討を行った.その成果は,国内外の関連学会において発表を行った.そして,その成果を受けて,対応する脳機能の定性的モデルの構築を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度(1年目)は「学習環境における表情認知過程を表現する神経科学の知見に基づく脳機能モデルの構築」を目的に,①一般的なモデル記述,②学習環境に依存したモデル記述の2段階に分けて上記のモデル構築に関する研究を行う予定であった.①に関しては,ヒト型エージェントの表情動作速度の非典型性が表情認知に与える影響に関して各種実験を通して検討を行った.その成果は,国内外の関連学会において発表を行った.そして,その成果を受けて,対応する脳機能の定性的モデルの構築を行ったが,その成果の公表には至っていない. さらに,②状況依存な(学習環境特有の)表情認知過程を表現する定性的脳機能モデルの構築に関しては研究の進行が遅れている.②ではある特定の学習環境を想定して,その環境に依存した表情認知に影響を与える要因をモデルに反映させる予定である.例えば,教師の表情は学習環境において,どのような難易度の課題を解いているかに影響を受けることなどが想定される.なお,学習環境としてはe-learning等のコンピュータ支援によるもの,また学習課題に関しては課題解決のために必要な知識構造が明確なものを用いることを想定している.ただし,「ある特定の学習環境」の選定に計画していた以上の時間を要している.これは,学習環境を規定する要因は大変多く,それらの中からなるべく一般性・汎用性が主張できる学習環境の選定が困難なことによる.なお,1年目の②の研究については2年目の研究の中で進めることが可能である.
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今後の研究の推進方策 |
2年目(平成31年度)「表情表出に基づく学習者の心的状態変化に関する実験的検討」に関する研究を行う.併せて,1年目に計画していた「②状況依存な(学習環境特有の)表情認知過程を表現する定性的脳機能モデルの構築」に関する研究を行う. 具体的には,PAの表情表出に基づく学習者の心的状態の「変化」に関するデータを実験を通して収集する.具体的には,PAの表情動作の適切な表出のタイミングと様態に関するデータを実験を通して収集する.実験では,以下の2点を取得する.(1)Visual Analog Scaleを用いた質問紙調査によって,被験者が教師エージェントに対して抱く情動評価(快-不快の程度).(2)生体計測機器を用いて学習時の生体情報(皮膚コンダクタンスや容積脈波).そして,得られたデータを用いて,平成29年度に構築したモデルの妥当性を検証する.実験においては,被験者(学習者)に学習課題を提示し回答を求める.この回答時にPAが様々なタイミングと様態によって表情動作を被験者に示す.このとき,教師エージェントは実験者によって遠隔で制御するWoZ(Wizard of Oz)法を用いる.実験の様子はビデオカメラを用いて撮影する.収録した映像を見ながら,学習者の心的状態の変化を学習者本人に想起してもらいながら回答してもらい,表情動作と心的状態の「変化」の対応を検討する
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費が他の研究費から支出した部分があったため次年度使用額が生じた.2年目の旅費あるいは消耗品費に充当する予定である.
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