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2019 年度 実施状況報告書

鉄の化学状態と放射性セシウムから読み解く貧酸素水塊下にある東京湾底質の堆積環境

研究課題

研究課題/領域番号 18K11613
研究機関東京大学

研究代表者

松尾 基之  東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10167645)

研究分担者 小豆川 勝見  東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (00507923)
杉森 賢司  東邦大学, 医学部, 講師 (30130678)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード貧酸素水塊 / 東京湾底質 / 浚渫窪地 / 非破壊状態分析 / メスバウアー分光法 / パイライト / 機器中性子放射化分析 / 鉛直分布
研究実績の概要

我々は過去に発生した貧酸素水塊の履歴が直下の堆積物に記録されているものと捉え、堆積物を鉛直方向に採取し堆積年代別に元素の化学状態を分析することで、過去の貧酸素水塊の履歴を明らかにすることを目的とする。そのために貧酸素水塊直下の堆積物を不攪乱型コアサンプラーで鉛直方向に採取し、可能な限り細かく裁断して分析試料に供した。
本年度は、貧酸素水塊の時期や度合いの異なる地点との比較検討を行うために、東京湾内の千葉県幕張沖と神奈川県横浜沖の堆積物試料について、パイライト(FeS2)の直接的な定量を試みた。堆積物が嫌気的環境になると硫黄化合物の還元により硫化水素が発生し、堆積物中の鉄と反応してパイライトが生成すると考えられる。そのために、高分解能で測定した57-Feメスバウアースペクトルを独自のプログラムで解析した。その結果、幕張沖で採取された堆積物コアは、横浜沖で採取された堆積物コアよりもパイライトが多く、鉄の(水)酸化物の割合が少なかった。このことから、横浜沖の方が貧酸素水塊の影響が少ないことが示唆された。これは過去の水質データとよく一致しており、さまざまな時点での溶存酸素の量は、パイライトまたは鉄の(水)酸化物の量で比較できることが示された。  また、ほとんどの試料でパイライトが観察されたことから、無酸素状態が東京湾で広く発生していたことが明らかとなった。さらに、堆積物中のパイライト存在比と夏期の海水中の溶存酸素との間には良好な負の相関が見られ、パイライトの存在比が無酸素水塊の発生の定量的指標となり得ることが示唆された。
また、貧酸素水塊の出現頻度とその範囲や強度は年によって異なるため、本年度は新たに幕張沖の浚渫窪地および平場において夏期に堆積物の採取を行った。現在、それらの試料の化学分析を精力的に進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

我々のこれまでの研究により採取した千葉県幕張沖の浚渫窪地および平場に加え、貧酸素水塊の度合いの異なる地点として採取した神奈川県横浜沖の試料について、放射化分析法による元素分析は既に終了している。本年度は、さらに分析手法として非破壊状態分析が可能な57-Feメスバウアー分光法を用いてパイライト(FeS2)の直接的な定量を試みた。一般的にメスバウアー分光法を用いれば、非破壊で固体試料中の鉄の価数を知ることができるが、本研究で着目しているパイライト中に含まれる鉄の化学状態は低スピン2価であり、底質中の粘土鉱物等に含まれる高スピン3価の鉄とピーク位置が非常に近い。そのため、通常の分解能のメスバウアースペクトルでは区別することが困難であった。そこで、測定範囲を狭めることにより分解能を上げて測定を行うことによってパイライトの定量が可能となり、環境化学的に有用な知見が得られた。

今後の研究の推進方策

貧酸素水塊の出現頻度とその強度は年によって異なるため、単年度の研究結果のみから普遍性を考察するわけにはいかない。そこで、千葉県幕張沖の浚渫窪地および平場において新たに堆積物試料の採取を行った。特に、幕張沖の浚渫窪地は、水底土砂埋め戻し工事により順次埋め戻しが進められている。この効果が堆積物試料の化学状態にどのような影響を及ぼすのか、興味深いところである。
今後は、新たに採取した堆積物試料に対して、メスバウアースペクトロメーターを用い、試料中の鉄の化学状態の測定を遅滞なく済ませる。また、元素分析については、機器中性子放射化分析を行う。そのために、既に京都大学の原子炉共同利用課題申請を済ませ、採択されている。最終的に、状態分析及び元素分析により得られたデータを鉛直方向に解析することにより、過去の貧酸素水塊の規模や経年的な変化を過去数十年単位で明らかにする。また、放射性セシウムの鉛直分布の解析から、堆積物を記録媒体とした貧酸素水塊の履歴の記録精度を確認することを試みる。

次年度使用額が生じた理由

(理由)本年度は、消耗品として購入予定だったロシア製57-Coメスバウアー線源の納品が間に合わなかったため、50万円ほどの次年度使用額が生じた。新型コロナウィルス感染防止対策のため、ロシアからの航空便が止まっていたが、幸い2020年6月には納品されるとの連絡を受けている。

(使用計画)次年度は、千葉県幕張沖の浚渫窪地および平場において採取した新たな堆積物試料の化学分析を行う。新規に購入した57-Coメスバウアー線源を行い、1試料当たりの測定時間の短縮を図る計画である。得られたデータの解析には多くの時間を要するため、学術支援員を雇用したいと考えている。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)

  • [雑誌論文] A study on evaluation of redox condition of Tokyo Bay using chemical states of sedimentary iron as an indicator by means of Moessbauer spectroscopy.2019

    • 著者名/発表者名
      M. Komori, K. Shozugawa, Y. Guan and M. Matsuo
    • 雑誌名

      Hyperfine Interactions

      巻: 240 ページ: -

    • DOI

      10.1007/s10751-019-1653-0

    • 査読あり
  • [学会発表] A study on evaluation of redox condition of Tokyo Bay using chemical states of sedimentary iron as an indicator by means of Moessbauer spectroscopy.2019

    • 著者名/発表者名
      M. Komori, K. Shozugawa, Y. Guan and M. Matsuo
    • 学会等名
      International Conference on the Applications of the Moessbauer Effect (ICAME2019)
    • 国際学会
  • [学会発表] 放射化学的手法を用いた貧酸素水塊環境下にある東京湾底質の堆積環境に関する研究2019

    • 著者名/発表者名
      松尾基之
    • 学会等名
      日本放射化学会第63回討論会(2019)原子核プローブ分科会
    • 招待講演
  • [学会発表] Moessbauer spectroscopic study on the chemical states of iron in Tokyo-bay sediments under hypoxia.2019

    • 著者名/発表者名
      Y. Guan, M. Komori, K. Shozugawa and M. Matsuo
    • 学会等名
      日本放射化学会第63回討論会(2019)

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公開日: 2021-01-27  

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