研究課題/領域番号 |
18K11615
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
井上 睦夫 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (60283090)
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研究分担者 |
長尾 誠也 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 教授 (20343014)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 放射性核種 / ガンマ線測定 / 日本海 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
海洋環境にもたらされる様々な汚染物質は、海水を媒体とし、海洋を拡散する。原子力発電所事故、海洋汚染事故由来の汚染物質、またはアジア大陸からの越 境汚染物質は、東シナ海を起点とし対馬暖流とともに日本海を北上した後、オホーツク海、および太平洋に放出される。これら海域における溶存成分および粒子吸着性成分の循環に関する情報は、海洋物質動態研究のみならず人為事故等に関わる海洋汚染に備え非常に重要である。本研究では、日本列島を取り巻く東シナ海、日本海、オホーツク海といった物質循環の特徴の全く異なる縁海における溶存核種Ra-226、Ra-228、Cs-137濃度、および粒子吸着性核種Th-228、Th-234濃度の季節的・空間的に高分解能かつ高精度なデータベースを、低バックグラウンドγ線測定法の適用により作成する。さらに、前年度までの研究より、これら縁海のみならず、日本列島を取り巻くより広範囲の調査 (例えば、黒潮、親潮海域) の必要性も明らかになっている。 ここで得られた放射性核種の時空間的分布を解析することにより、海水および粒子の循環モデルを構築する。これらを有事の際の溶存および粒子吸着性汚染物質循環の対策に対応しうるものにまとめる。一方で、2011 年3 月の福島原発事故によりCs-134、Cs-137が海洋に放出され、事故以前は検出限界以下であったCs-134が、東シナ海、日本海、オホーツク海等において事故後に極微弱ながら検出されてた。Cs-134濃度は放射能汚染の指標のみならず、2011年の福島原発をスタート地点とした、海水循環を探る極めて重要なトレーサーとして利用しうる。令和元年度は、特に、① Ra-226、Ra-228、Th-228、およびTh-234からみた日本海南西域における対馬暖流第二分枝の詳細な循環とそれに伴う物質動態、および②Cs-134濃度の時空間分布より、黒潮海流に伴う東シナ海を経由した日本海への放射性セシウムの循環メカニズムについて、議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度は、調査航海における、一連の海水試料採取、化学処理、放射能測定も予定通り、進めることができた。さらに、これら成果としてまとめた論文は、代表者を筆頭とし、Marine Chemistry、Journal of Environmental Radioactivity、Scientific Reportsに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
海洋環境における供給源、半減期および地球化学的挙動の全く異なるRa-226、Ra-228、Cs-134、Cs-137、Th-228およびTh-234の時間的・空間的に高分解能かつ高精度なデータは、日本列島を取り巻く海洋放射能汚染をはじめとする汚染事故などに起因する溶存および非溶存有害物質の循環予測に極めて重要である。令和二年度においても、これら複数の放射性核種濃度の組み合わせにより、日本海を中心に日本列島を取り巻く海洋物質循環の季節変動、さらに鉛直循環を含めた三次元的物質循環の解明を継続して進める。測定放射性核種の変更はないが、令和二年度は主にCs-134に注目する。福島原発由来で短半減期 (2.06年) ゆえに、海洋環境中の濃度が減少しつつあるCs-134の測定の継続のため、海水の化学処理に要する試料量の増加が必要である (1試料100リットルの海水採取を依頼済み)。さらに、本申請課題における議論を進めるには、より広範囲な海域を対象とした調査が必要である。令和二年度は、北太平洋北西域を舞台とし、日本列島にもたらされる黒潮、親潮海流におけるCs-134濃度の分布を調べることにより、日本列島近海の海流の供給源を解析する予定である。現在、これら海流域を対象とした海水採取の計画を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究遂行のための調査航海が、航海に関する共同研究締結により、当初負担額が低減したため。
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