研究課題
降水の酸素・水素安定同位体比は、気温、降水量、降雨をもたらす水蒸気の起源など、気象状況によって大きく変動するものと考えられている。従来の研究において、水の酸素・水素安定同位体比やそれらから推定される同位体分別の指標であるd-excess値は、水が蒸発した海域等の降水の起源推定等に用いられてきた。近年、日本各地では、過去の観測値を超える降水量が頻繁に生じており、これまでとは異なった降水形態が起きていることが示唆されている。本研究では、東アジア酸性雨モニタリングネットワークの東京/小笠原/新潟サイトで日毎に採取された降水試料中の水の酸素・水素安定同位体比を測定し、水溶性イオン濃度変動に着目して解析を行った。各地点ともに、d-excess値は冬季に高く夏季に低い季節変動が認められた。冬季の東京におけるd-excess値は、小笠原で観測された値よりもわずかに高く、新潟で観測された値に近かった。また、夏季に観測された降水中のd-excess値は、3地点における明瞭な違いは認められなかった。d-excess値は、降水の起源の違い(大陸・海洋性気団)を示唆しているものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
2015-2017年に、都市大気の東京及び離島の小笠原において採取された日毎の降水試料中のの水安定同位体比(酸素・水素安定同位体比)の分析が終了した。また、2019年度は、アジア大陸からの越境輸送の影響が強い日本海沿岸に位置する新潟において、冬季と夏季の降水試料中の水安定同位体比の分析が終了している。これらの地域は、日本における大気汚染の影響が一番大きい都市大気、大気汚染の影響が日本で一番少ない離島、アジア大陸からの越境輸送の影響を捉えることが可能な日本海沿岸であるため、水安定同位体比の変化と降水中の主要成分である水溶性イオンの濃度の関係を明瞭に比較できる。解析結果から、水の酸素・水素安定同位体比から推定される同位体分別の指標であるd-excess値から、アジア大陸の影響を受けた大気と海洋大気の区別が明らかになった。
前年度に引き続き、2018年度以降の東京・小笠原・新潟で採取された日降水試料中の水安定同位体比(酸素・水素安定同位体比)を測定する。地域毎に季節変動・年々変動や水溶性イオン濃度との関係を明らかにする。降水強度の違いによる水の酸素・水素安定同位体比やd-excessの違い、大気汚染物質濃度との関係を明らかにする。また、再解析データや化学輸送モデルを用いた気象解析を組み合わせることで、越境輸送による大気汚染物質が降水システムに与える影響を調べる。
降水試料の分析機器のマシンタイムが限られていたため、当初分析を予定していたサイトの通年測定ができなかったため。
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