研究課題
≪1≫ 年代モデルの構築: ミャンマー産チーク試料 6 個体のうち3個体について年輪幅を計測し、伐採年月を考慮し、近隣の標準年輪年代曲線と比較することにより、生育期間を検討した。その結果、3個体の各々に95~97個の年輪が観察でき、1906年から2001~2003年まで生育したと推定できた。さらに、年輪幅と降水量の時系列データを相関解析したところ、年輪幅と雨季降水量に有意な正相関を確認できた。これは、ミャンマー北部の先行研究(D’Arrigo et al., 2011)と整合的で、本研究地域であるミャンマー中部でも年輪幅は雨季降水量の指標として有用であると言える。≪2≫ 古気候指標としての評価: 上記のミャンマー産チーク試料 3個体について、化学処理により年輪セルロースを抽出・精製し、酸素同位体比(δ18O)を分析した。3 個体の過去約100年間にわたる酸素同位体比は21 ~ 27‰の範囲で変動し、その時系列は2つのパターンに分かれた。2個体はともに酸素同位体比の個体間相関が良いが、降水量との相関を示さなかった。これらの試料では欠損輪を見落とした可能性もあり、年代モデルの再確認を進めている。一方で、残りの1個体の酸素同位体比については雨季降水量と有意な負の相関を示した。この結果は、インドネシア・ジャワ島のチークの先行研究(Schollaen et al., 2013; Hisamochi et al., 2018)と整合的であった。本研究地域のミャンマーにおいても、チークの酸素同位体比は雨季降水量の代替指標となる可能性があり、今後、その信頼性を慎重に評価していく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
研究計画の予定通りに進み、ミャンマー産チーク試料3個体について年輪幅とセルロース酸素同位体比を計測することにより、≪1≫年代モデルの構築をし、≪2≫古気候指標としての評価を行うことができたため。
ミャンマー産チーク試料6個体のうち、残り3個体についても年輪幅と同位体比の分析を進める。ミャンマーの年輪データを蓄積していくとともに、その同位体比の数値モデル化にも取り組むことにより、年代モデルを再検討し、さらに樹木年輪が気候を記録するプロセスについて詳細に理解していきたい。加えて、初年度に得られたデータを国内学会や国際学会で公表し、年輪気候学的な議論を深める。
(理由)実験補助をお願いして謝金を支払う予定でいたが、大学院での研究の一端として研究補助を行ってくれる院生がいたので、次年度の研究費として使用を延期することとした。(使用計画)樹木年輪試料を分析するために必要な薬品や実験消耗品の購入に使用する。また年輪試料の観察など実験に時間を要する作業については実験補助者を依頼し、謝金を支払う。研究成果を国際学会および国内学会にて公表するために旅費を使用する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Dendrochronologia
巻: 52 ページ: 80-86
https://doi.org/10.1016/j.dendro.2018.09.010