研究課題/領域番号 |
18K11620
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡邊 裕美子 京都大学, 理学研究科, 助教 (20509939)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 樹木年輪 / 同位体 |
研究実績の概要 |
前年度、ミャンマー・バゴー山地産チーク試料6個体のうち3個体について 年輪幅とセルロース酸素同位体比(δ18O)の分析を行った。本年度は、残り3個体の分析を同様に行い、チーク試料6個体すべての結果をまとめ、≪1≫年代モデルの構築、≪2≫古気候指標としての評価を再検討した。 ≪1≫ 年代モデルの構築: ミャンマー産チーク試料 6 個体のうち未分析の3個体について年輪幅を計測し、伐採年月や6個体の個体間相関を考慮することにより生育期間を決定した。また、年輪幅と降水量の時系列データを相関解析したところ、年輪幅と雨季降水量に有意な正相関が得られた。これはミャンマー北部の先行研究(D’Arrigo et al., 2011)と整合的で、本研究地域であるミャンマー中部でも年輪幅は雨季降水量の指標として有用であると言える。 ≪2≫ 古気候指標としての評価: 上記のミャンマー産チーク試料 3個体について、化学処理により年輪セルロースを抽出・精製し、酸素同位体比を分析した。セルロースδ18Oは22 ~ 29‰の範囲で変動し、その時系列データには有意な個体間相関があることが明らかになった。一方で、降水量データと相関解析した結果、セルロースδ18Oと降水量との有意な相関は見られなかった。本研究地域に隣接するヤンゴンでは、雨季前半に降水δ18Oが高く、雨季後半には降水δ18Oが低くなることが知られている(Global Network of Isotopes in Precipitation)。これは、雨季前半にはベンガル湾起源の降水が卓越し、雨季後半には南シナ海起源の降水が含まれることに由来すると考えられている。従って、雨季の降水δ18Oが季節進行に伴って変化する 本研究対象地域においては、チークのセルロースδ18Oは降水量の指標にはなりづらいが、降水起源の情報が得られる可能性があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の予定通りに進み、ミャンマー産チーク試料6個体について年輪幅とセルロースδ18Oの分析が完了し、≪1≫年代モデルの構築をし、≪2≫古気候指標としての評価を行うことができたため。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウィルスへの対策の影響により、2020年度に予定していたミャンマーでの樹木試料の採取の目途が立たず、当初計画していた ≪3≫古気候復元 を予定通り実施することは難しい可能性がある。また、≪2≫古気候指標としての評価 をいくなかで、当初の想定とは違う結果が得られた。当初、アジアの他地域の先行研究同様に チークのセルロースδ18Oは降水量と相関があると想定していたが、実際には相関が得られず、降水起源の影響が強いことが示唆された。これは、雨季に降水起源が変化する地域においては一般的な事象と考えられ、アジアの樹木年輪から降水履歴を推定する上で基礎的で重要な知見になりうる。そこで、当初の研究計画を見直し、既に入手済みのミャンマー産のチーク試料について 年輪内の同位体比分析も行い、樹木年輪が降水を記録するプロセスについて基礎的な理解の深化を目指したい。加えて、これまでに得られたデータを国内学会や国際学会で発表し、国際学術雑誌への投稿準備も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)樹木年輪試料を分析するために必要な薬品や実験消耗品の購入を考えていたが、前年度購入分の残りで一部賄うことができたため。 (使用計画)樹木年輪試料を分析するために必要な薬品や実験消耗品の購入に使用する。また、年輪試料の観察など実験に時間を要する作業については実験補助者を依頼し、謝金を支払う。研究成果を国際学会および国内学会で発表し、国際学術雑誌に投稿するための費用として使用する。
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