研究実績の概要 |
前年度までに、ミャンマー・バゴー山地産チーク試料6個体について、年輪幅とセルロース酸素同位体比(δ18O)の分析を終え、≪1≫年代モデルの構築、≪2≫古気候指標としての評価を行った。研究当初はアジアの他地域の先行研究と同様に、チークδ18Oは降水量と相関することを想定していたが、研究過程で実際には有意な相関は得られないことが判明した。そこで、当初の研究計画を見直し、本年度は、上記チークのうち2個体について年層内を細分割し、同位体比分析することにより、チークδ18Oと降水量とに相関が認められない要因についての理解を目指した。1981~1987年に形成された年輪について年層内を6~12分割して分析した結果、年層内セルロースδ18Oは23~29‰の範囲で大きく変動し、その変動パターンは年毎に異なっていた。さらに、同時期のバンコク降水δ18O(Global Network of Isotopes in Precipitation)、タイ北部チークδ18O(Muangsong et al., 2020)と、バゴー山地チークδ18Oの年層内変動は非常によく類似していることが明らかになった。本研究対象地域であるバゴー山地は、バンコクやタイ北部と同様に、雨季の季節進行に伴ってベンガル湾から南シナ海に降水起源が変化し、それとともに降水δ18Oが低下する傾向にある。従って、チークの年層内δ18O変動は降水δ18Oに由来し、降水起源の情報を有している可能性を明示することができた。このことは雨季に降水起源が変化する地域において一般的な事象と考えられ、アジアの樹木年輪から降水履歴を推定する上で基礎的で重要な知見である。
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