研究課題/領域番号 |
18K11621
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中山 典子 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60431772)
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研究分担者 |
中嶋 悟 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80237255)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水中の金属硫化物 / 水中のナノ粒子 / 存在状態と化学形態 |
研究実績の概要 |
水中に存在するナノ粒子が、水圏における微量金属の物質循環に大きな役割を果たしている可能性が示されている。しかし、その存在量が極微量であるために、その生成・除去メカニズムについてはもとより、濃度情報さえも明らかにされていない。さらに、その存在状態や化学形態については推測の域をでていない。そこで本研究では、特にナノ粒子態微量金属の硫化物に着目し、実験室でのモデル実験を通して、ナノ粒子態微量金属硫化物の生成・変化過程を追跡し、水溶液中の共存塩や有機配位子の存在、pHや酸化還元状態が、ナノ粒子態金属硫化物の存在状態と化学形態、およびその生成率にどう影響するのかを明らかにする。ナノ粒子の実体が何であるのか、またその生成・除去メカニズムを調べることで、水圏の生物地球化学的物質循環におけるナノ粒子態金属硫化物の寄与を定量的に明らかにする。研究実施1年目は、最もシンプルな実験系である水溶液を用いて金属硫化物を生成し、分析手法や分析条件の確立を行いながら、その存在形態や化学状態を捉えることを目的とした。熱水噴出口付近の濃度に相当する約1~5 mM の金属イオン(鉄)と硫化ナトリリウム・9 水和物(Na2S/9H2O)をそれぞれ純水に溶解した水溶液を作成し、両者を測定セル内で混合させて金属硫化物を生成させた。この水溶液中の粒子径を、動的光散乱測定装置(DLS 装置)を用いて測定を行ったところ,80~500 nm のナノ粒子が生成していることを確認した。沈殿物は遠心分離などで分離し、その化学形態を顕微ラマン・赤外分光で分析を行った結果、金属硫化物のスペクトルが得られていることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画当初から30年度に実施する予定であった研究項目は、ほぼ予定通りに実施されている。実験室で水溶液中に金属硫化物を生成し、その粒径を動的光散乱装置で測定したところ、80~500 nmのナノ粒子が生成されていることが確認できた。これらの生成したナノ粒子について、顕微ラマン・赤外分光測定を行ったところ、金属硫化物が生成されていることが確認できた。以上の結果から、実験系でのナノ粒子生成実験は順調に進展している。ナノ粒子のその場観測法による速度論的追跡の評価については、本研究で初年度購入予定の可視紫外分光の購入が遅れたため、次年度に持ち越された。しかし次年度すぐに発注を行っており、これらの溶液・沈殿物中のナノ粒子のその場観測法による速度論的追跡の評価は、すぐに実行可能な状況にある。計画された内容がおおむね順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの水溶液を用いた実験に加え、より現実的な熱水系でのナノ粒子生成過程を再現するため、粒子状物質を除去した温泉水・熱水を試料水として、金属硫化物ナノ粒子の生成実験を行う。実験条件(pH, 酸化還元状態、共存塩類、有機物添加)を変化させ、31年度に購入する可視光分析計を用いてナノ粒子生成・変化過程を時間追跡する。また SEM/TEM-EDS、顕微ラマン・赤外分光法、および Nano-SIMSを用いて、粒子形状・化学形態や、粒子内の有機成分の分布などを明らかにする。また生成した金属硫化物ナノ粒子中の硫化物濃度や微量金属濃度を、温泉水・熱水試料水について行った実験についても、1年目と同様に測定する。得られた結果をもとに、ナノ粒子態金属硫化物の安定化の要因等を評価する。実験的に得られた金属硫化物ナノ粒子の生成・変化過程とその速度などを用いて、これまで申請者などによってフィールド観測などから得られた金属硫化物ナノ粒子の粒径および濃度の空間的分布の結果なども活用しながら、水圏の金属硫化物ナノ粒子の初期濃度や半減期、微量金属元素の物質循環への寄与を推定する。得られた結果をもとに、微量金属元素の生物地球化学的物質循環における、ナノ粒子態金属硫化物の寄与を定量的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
可視分光計の発注遅れにより、購入が次年度に持ち越されたため、次年度使用額が生じた。可視分光計はすでに発注済みであり、研究使用計画通りに用いられる。
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