海水に存在する鉄や銅、亜鉛といった金属元素は、生物活動に必須な栄養素であるが、海洋環境には、ピコ~ナノモル程度と極微量にしか存在せず、海水中に供給されてから、酸化され水中から迅速に沈降・除去されると考えられてきた。しかし、これまでの申請者の海洋観測の結果から、これらの必須微量金属元素が、主に粒径200nm以下の「ナノ粒子態金属硫化物」を形成し、海水中での沈降・除去を免れて、広く輸送されていることが明らかにされている。 本年度は、実験室でのモデル実験を通して、ナノ粒子態金属硫化物が、どのような海洋環境状態で生成するのかを明らかにすることを目的とした。熱水系でのナノ粒子生成過程を再現するために、実験室における水熱合成実験を行った。前年度は、反応容器の設計最高温度条件により、230℃までの実験条件下で水熱合成実験を行った結果、溶液中にナノ粒子の生成を確認することが出来なかった。この原因として、反応温度条件が十分でないこと、水熱合成実験に用いたチムニー試料の主成分が、ICP発光分析の結果から炭酸カルシウム(CaCO3)であったことが実験後に分かり、岩石試料が溶解してしまったことなどが考えられた。そこで、今年度は、新たに超臨界実験用高圧容器を用いて、より高温側(<400℃)での反応条件を設定できる実験環境を整え、反応試料にはインド洋熱水域から採取された火成岩(枕状溶岩)6K#918-R03を用いて、海水との水熱合成実験を行った。火成岩試料と海水を反応させた後、動的光散乱測定装置(DLS)を用いて、海水中のナノ粒子の存在を確認したところ、海水-岩石反応温度を400℃とした場合、1000nm粒径の粒子が生成されていることが確認された。一方、360℃以下では、粒径100nm以下の粒子が生成されていることが確認された。
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