研究課題/領域番号 |
18K11623
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井手 淳一郎 九州大学, 持続可能な社会のための決断科学センター, 助教 (70606756)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超高分解能質量分析法 / 森林管理 / 土地利用 / 共通分子 / 固有分子 / 難分解性有機物 / 針葉樹林 / 広葉樹林 |
研究実績の概要 |
本年度は超高分解能質量分析法(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型質量分析法:FT-ICR MS)によって得られる溶存有機物(DOM)の構成分子種に関する膨大な情報が,森林から河川への輸送過程におけるDOMの質の変化を追跡するトレーサーとして利用可能かどうかについて検討した。具体的に,森林を通過する雨水中DOMの構成分子種が樹種によって大きく異なる否か,また,時間変化するか否かについて検討した。このため,九州大学演習林の10林班のスギ林,マテバシイ林,およびカシワ林に方形プロットを設定し,林外雨,林内雨,土壌水を採取し,それら試料水中のDOMを構成する分子の種類と数をFT-ICR MSによって評価した。 林相(樹種)の異なる3つの方形プロットで冬季に実施した調査では,林内雨のDOM構成分子種にプロット間で有意な違いが観測された。すなわち,樹種によって林内雨のDOMの質が異なった。一方,土壌水ではDOM構成分子種にプロット間の違いは見られなかった。これは,試料採取時期に土壌が乾燥していたために土壌水が十分に採取できず,サンプルの繰り返し数が確保できなかったことに一部起因すると考えられた。 同じ年の異なる時期(2月と12月)に林外雨,林内雨,土壌水を採取し,それらのDOM構成分子種を比較した結果,採取時期によって構成分子種が有意に異なった。すなわち,森林を通過する雨水中のDOMの質は時期的に変動することが明らかとなった。 以上の結果から,FT-ICR MSによって得られるDOM構成分子種の情報を河川水のDOMのトレーサーとして用いる場合,森林の樹種構成やDOMの質の時間変動を考慮する必要があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた,林分スケールにおける溶存有機物の構成分子種の時間変動に関する観測は実施できている。また,上流域の森林河川から下流域の都市河川までの河川試料水の採取も実施できている。 これまでの林分スケールにおける観測から様々な発見が得られており,学会の年会や国際誌上で随時公表している。
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今後の研究の推進方策 |
現在採取している森林河川試料水の溶存有機物(DOM)構成分子種を解析し,林外雨,林内雨,土壌水のDOM構成分子種と比較する。これによって,河川水のDOMが森林内のDOMをどの程度反映しているかを検討する。加えて,上流域の森林河川から下流域の都市河川までのDOM構成分子種を解析し,河川流下に伴うDOMの質の変化を調べる。以上の結果を統合し,森林内のDOMや林相によるDOMの質の違いが下流河川までのDOMの質の変化にどのように,また,どの程度反映されるかを明らかにする。 令和2年度より申請者の所属が変更となったため,新所属での試料水分析のための実験環境構築を図っていく予定である。FT-ICR MSにおける前処理を効率的に実施できる実験環境構築に注力していく。また,新所属における観測フィールドを新たに設定し,森林や河川のDOM構成分子種を調べていく予定である。前所属での観測結果とあわせて,地域によって森林や河川のDOM動態がどのように変化するのかについても検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた年度末の学会が新型コロナウィルスの影響で中止となったため,旅費として配分していた科研費が使用できなかった。 次年度使用額は旅費として使用する予定である。
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