研究課題
本研究では超高分解能質量分析法FT-ICR-MSによって得られる,雨水や河川水等の溶存有機物(DOM)の構成分子種に関する膨大な情報を整理し,環境中におけるDOMの質の変化を追跡するトレーサーとしてDOM構成分子種を用いる手法を構築し,森林から河川への輸送過程におけるDOM動態について検討することを目的としている。本年度は森林域から都市域を貫流する多々良川を対象に,河川の流下過程におけるDOMの質の変遷を踏まえて,河川とその上流の森林域におけるDOMの関連性を探った。このため,多々良川の上流から下流までの計10か所で採取した河川試料水と,多々良川上流部に位置する九州大学演習林の森林試験地で採取した林内雨,土壌水等の試料水をFT-ICR-MS分析に供した。試料水間で共通するDOMの構成分子種を解析しクラスタリングを行った結果,河川のDOM構成分子種は森林由来のそれと有意に異なり,また,上流から下流にかけて大きく変化した。このことは,河川試料水が平水時に採取されたものであるため,林内雨や土壌水の成分をほとんど含んでいなかったことを反映すると考えられた。河川試料水のDOMの分子組成を解析した結果,河川の上流から下流にかけてDOM構成分子種の組成式にヘテロ原子,とくに窒素(N)や硫黄(S)を含む分子種が多くみられた。さらに,分子パラメータをもとにした主成分分析の結果から,下流側では芳香族化合物の分子種が少なく,Nやリン(P)を含んだ分子種が多い傾向にあったことが示された。このことは,河川が流下するにつれて農地や市街地等,人為的影響の強い土地利用からNやPを含む分子種が河川へ流入するようになることを示唆する。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件)
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