植物の根の呼吸速度は短期的には温度の影響を受けて変動する。ところが、申請者らが冷温帯のミズナラ、ヒノキ、シラカンバ、イヌツゲで、野外で根の呼吸速度を測定したところ、根の呼吸速度が地上部の葉の蒸散速度の変動に伴って大きく変動することが明らかにされた。 本課題は、樹木の根の呼吸速度が、地上部の葉の蒸散速度の影響を受け、日中に大きく変動するというこの現象の普遍性について、様々な気候帯の主要樹種を用いて、検証することを目的とした。 対象とした樹種は、テリハハマボウ、シャリンバイの亜熱帯性樹種、シラカシとアラカシの暖温帯樹種の計4種であった。上述の亜熱帯性樹種の根の呼吸速度と、葉における蒸散速度・光合成速度を同時に連続測定したところ、根の呼吸速度は、光合成・蒸散速度の日中低下より少し遅れてではあるが、日中に大きく低下していた。また、光合成・蒸散速度の回復より少し遅れて増加していた。 同様に、アラカシとシラカシで野外測定をおこなったところ、アラカシでは検出できなかったが、シラカシでは、葉の光合成・蒸散速度の日中低下やその後の回復と並行して、根の呼吸速度も大きく変動していた。 測定対象とした4樹種のうち、3種において根の呼吸の日中変動が観測されたため、既に観測されたミズナラ、ヒノキ、シラカンバ、イヌツゲの5種と合わせて、計8種の樹木において、温度変化によらない”根の呼吸の日中変動”が存在していること、そしてその要因が、葉の蒸散速度と関係していることが明らかとなった。 しかしながら、葉の蒸散速度の変化に対し根の呼吸速度の変化に遅れが認められる樹種もある。今後の課題としては、その遅延の原因と、根の呼吸速度の日中変動のメカニズムを明らかにすることである。また、他の気候帯の樹種についても今後、根の呼吸の日中変動の存在を明らかにしていきたい。
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