研究課題/領域番号 |
18K11625
|
研究機関 | 熊本県立大学 |
研究代表者 |
小森田 智大 熊本県立大学, 環境共生学部, 講師 (10554470)
|
研究分担者 |
田井 明 九州大学, 工学研究院, 准教授 (20585921)
山田 勝雅 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 特任助教 (80569195)
折田 亮 佐賀大学, 農学部, 助教 (80800143)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 貧酸素水 / 底生動物 / 有明海 / 酸素消費 |
研究実績の概要 |
沿岸域では「貧酸素水の移流」が底生動物に致命的な影響を与えることがある。従来、貧酸素水は発生域のみに影響すると考えられてきたが、近年では貧酸素水が発生しない比較的清浄な海域にも移流することで影響することが知られている。貧酸素水の移流は、干満差が顕著な海域で普遍的であるにも関わらず、観測網が未発達な海域では認識されておらず、世界的にもその影響は数値化されていない。近年、我々は日本有数の干満差をもつ有明海でも、貧酸素水の移流が底生動物の生存を脅かす現象を発見した。この結果を踏まえて、本研究は、①貧酸素水の移流が非発生域の底生動物に及ぼす影響の数値化と、その影響度を予測するモデルの構築、②大型水槽を用いたメソコスム実験により野外で生じる現象の再現、③有明海で移流する貧酸素水のリスクマップの作成,を目的とする。 本研究域では、海水温が上昇し、水温躍層が形成される夏季に貧酸素水が発生することが分かっている。そこで貧酸素水の発生前から終息後にかけて、連続観測された溶存酸素濃度を解析し,溶存酸素濃度が3mg/Lを下回る場合を貧酸素が発生していたとし、その継続時間を貧酸素強度として計算した.解析の結果、貧酸素強度が強い泥底では多様度指数の変化が小さい一方、貧酸素強度が弱い砂底においてはその変化が大きくなる傾向が示された。このことから、貧酸素水が発生しない底生動物群集は貧酸素水の流入に対して敏感であることが分かった。 実験系については、有明海特有の二枚貝であるアゲマキを用いた試験を実施した。潮汐のみによる海水交換がある系において、アゲマキの個体数減少に対して、底質の嫌気化および貧酸素水の悪影響がある可能性が示された。 数値モデルを高精度に発展させるために物理現象の中でも堆積物の再懸濁および底質輸送に関わるモデルを開発し、潮流による物質輸送の重要性を指摘した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの既往のデータベースを取りまとめるとともに、底生動物群集の群集解析を実施することができた。本研究では独自に貧酸素強度を定義し、それを底生動物群集と照らし合わせることに成功した。このことから野外の底生動物群集が貧酸素強度に対して明瞭な応答を示すことができた。 実験系については、野外においてアゲマキの個体数変動の減少要因として貧酸素水の流入が大きな問題になり得る可能性を明らかにした。さらに数値モデルについても構築しており、貧酸素水の発生と関連性が強い底質の再懸濁と潮流の関係を解明した。
|
今後の研究の推進方策 |
データ解析、実験、モデルについて個別の知見が集積しつつある。今年度については個別に詳細なデータの蓄積を進めるとともに、得られた知見の統合を図る。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた論文の英文校閲が実施できていないことから、次年度使用額が生じた。次年度使用額については、室内実験への設備投資、分析およびデータ解析に関する人件費、英文校閲費などへの使用を予定している。
|