研究課題/領域番号 |
18K11627
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 和樹 日本大学, 工学部, 准教授 (60435500)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 白瀬氷河 / 流動速度 / リュツオ・ホルム湾 / 定着氷 / 変位 / 画像相関法 / 合成開口レーダ |
研究実績の概要 |
白瀬氷河は南極の他の氷河と比較しても流動速度が速いことで知られており、南極氷床の質量収支の把握のために氷河の流動速度の監視は重要である。現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた陸域観測技術衛星2号(ALOS-2)が運用されており、ALOS-2に搭載されたフェイズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(SAR)2型(PALSAR-2)によりSARデータが取得されている。ALOS-2/PALSAR-2の広域観測モードデータによる白瀬氷河の観測結果から、1998年秋季に氷河浮氷舌と定着氷の大規模な崩壊以降は顕著な変動は見られなかったが、2015年以降は定着氷の大規模な崩壊が始まり氷河の流動速度にも変化が見られている。このことから、ALOS-2/PALSAR-2の高分解能モードデータを用いて、白瀬氷河と氷河末端の定着氷の流動速度の相互関係を調べた。 白瀬氷河の流動速度プロファイルから、Grounding line(GL)から10 km下流における流動速度は、ほぼGLにおける流動速度と同様の2.33±0.02 km a-1であり(7ペアの平均±標準偏差)、氷河末端周辺の定着氷の安定/不安定との関連性は低いと見られる。一方、2017年と2018年の秋季に見られたようにリュツォ・ホルム湾東部に開放水面が生じた場合、GLから30 km下流辺りから沖側へと定着氷の安定/不安定に関係する流動速度の顕著な変化が見られた。GLから10 km下流と氷河末端の流動速度の差は、定着氷が存在する場合が0.39 km a-1、存在しない場合が0.62 km a-1であり、定着氷が存在しないことにより0.23 km a-1の加速を示した。氷河末端周辺における定着氷の流動速度プロファイルから、定着氷の流動速度は氷河末端部から沖側へと減速する傾向が見られ、距離に対する速度の減衰率は時期や位置に依らず同じ傾向を示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALOS-2/PALSAR-2の観測は基本観測シナリオに基づいており、高分解能モードによる観測データ取得後、直ちに解析に取り組むことが可能であった。そのため、 データ取得日から後れを取ることなく解析が進められた。
|
今後の研究の推進方策 |
ALOS-2/PALSAR-2の高分解能モードデータに画像相関法を適用することにより、白瀬氷河の流動速度と氷河末端を取り囲む定着氷との流動変動を調べた。その結果、 白瀬氷河の下流域における流動速度は定着氷の安定/不安定に関係しており、定着氷が安定している場合と比較して、定着氷が沖へ流出した場合の白瀬氷河の流動速度は加速傾向にあることから、今後、さらなる観測を継続し、定着氷と白瀬氷河との流動変動の関連性を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2019年度にデータ保存用の計算機を購入する予定であったが、他の研究費で購入することができた。そのため、2020年度には、現在の画像相関法で使用するために必要な大容量のメモリを購入することにより、より多くのデータを高速に処理することができる予定である。
|