温帯地域の蚊の個体数動態は、将来の気候で媒介する病気が流行することが懸念されているにもかかわらず、熱帯・亜熱帯地域の蚊の個体数動態ほどには解明されていない。温帯地域の媒介蚊であるAedes albopictusは、越冬中に卵休眠期を迎える。そこで、本研究では、将来の気候条件下における蚊媒介性感染症の流行状況を把握するため、蚊の個体数の動態をシミュレーションし、予測することを目的とした。温帯蚊の生理学に基づく気候駆動型の蚊の個体群モデル(PCMP)に、越冬のための卵休眠の打破を取り入れるように調整した。また、降雨が幼虫の収容力に及ぼす影響をモデルに組み込むことで、将来の気候条件下でこの種の個体群動態がどのように変化するかを調査した。蚊の個体群動態をシミュレーションするためにPCMPモデルを構築し、東京で観測されたデータに適合するように、卵休眠と降雨効果のパラメータを各モデルで推定した。PCMPモデルに地球規模の気候モデルデータを適用したところ、将来の気候条件下で蚊の個体数が増加することが確認された。PCMPモデル(A. albopictusの環境収容力に対する降雨効果の有無)を適用することにより、将来の蚊の集団動態は、活動期や個体数のパターンが変化する可能性があることが予測された。その結果、二酸化炭素排出量が最も多いRCP8.5シナリオで、降雨による環境収容力の影響を考慮した場合のピーク個体数は、降雨の影響を考慮しない場合の約1.35倍となった。このことは、蚊の個体群動態に降雨効果を含めることが、今後の蚊媒介感染症のリスク評価に大きな影響を与えることを示唆している。
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