研究課題/領域番号 |
18K11632
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研究機関 | 国土地理院(地理地殻活動研究センター) |
研究代表者 |
松尾 功二 国土地理院(地理地殻活動研究センター), その他部局等, 研究官 (80722800)
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研究分担者 |
大坪 俊通 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (70358943)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 宇宙測地学 / 衛星重力観測 / 衛星レーザ測距 / 全球質量収支 / 環境変動 / 極域科学 / 海洋科学 / 水文学 |
研究実績の概要 |
本研究は、衛星レーザ測距(SLR)から推定される地球の時間変動をもとに、地球上の陸・海・氷床との間で取引される水の移動量(質量収支)の時間変化を定量推定し、その原因となった地球物理現象の解明に迫るものである。 本年度は、まず、研究分担者が代表となって開発を進めている宇宙測地データ統合解析ソフトウェアを用いて、SLRデータから次数6までの地球重力場の変動解を推定した。そして、正則化最小二乗法によって、世界の9つの陸域(南極、グリーンランド、アジアなど)と,3つの海域(太平洋・インド洋・大西洋)の質量収支の時間推移を定量推定した。なお、ここで推定する質量物質は、陸水、陸氷及び海水である。その結果,1994-2015年の期間において,南極では約150Gt/yrの質量減,グリーンランドでは約200Gt/yrの質量減,アジアでは約100Gt/yrの質量減,その他の大陸では総量で約100Gt/yrの質量減,太平洋では質量変化はほぼ均衡しており,インド洋では約50Gt/yrの質量増,大西洋では約500Gt/yrの質量増が推定された.陸域については、他の測地観測とも整合した傾向が得られたが、海域については、特に大西洋で異なる特徴が得られた。SLRデータから推定された重力解は、1994-2000年の期間で極めて誤差が大きく、この影響が海域の質量収支の推定に不確定性もたらしている可能性がある。今後、SLR解析戦略の更なる高度化に取り組む必要がある。 地球の重力場以外の力学モデルの誤差は、地球重力場解の誤差要因となる。本年度はそのうち地球輻射圧による加速度計算を高精度化した。具体的には、MERRA-2 全球時系列気象データから雲量やアルベドのデータを抽出して、時々刻々変化する地球表面での反射光量および赤外再輻射の量を計算し、そこから測地衛星へ作用する加速度を求める。その評価は今後取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SLR重力解から全球質量収支を推定する逆解析手法については、計算プログラム等の開発は完了し、陸域の質量収支に関しては概ね良好な結果を得ている。その初期成果は、昨年度開催された国際会議(AOGS2018)にて、発表を行っている。今後は特に、SLRデータの解析手法の高度化に取り組み、全球質量収支の高精度な推定に臨む。 SLRデータの解析手法の高度化については、昨年度、様々な国際会議(GGHS2018、21st International Workshop on Laser Ranging、AGU2018など)に出席し情報収集を行ったことで、その具体的な研究実施内容が定まった。今後、SLR解析ソフトウェアの改修を行い、SLR重力解の更なる高精度化に臨む。
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今後の研究の推進方策 |
SLRデータの解析手法については、(1)大気質量を補正するためのモデルの改良(AOD1B05モデル⇒AOD1B06モデル)、(2)衛星の軌道決定を行うために必要な国際測地基準座標系の更新(ITRF2008⇒ITRF2014)、(3)衛星の初期軌道を与えるための背景重力場モデルの更新(GOCO05Sモデル⇒GOCO06Sモデル)、(4)衛星に作用する太陽と月の引力(3体問題)で生じる軌道擾乱を補正するために必要な暦の更新(DE421⇒DE430)、(5)海洋潮汐による重力及び地球変形の影響を補正するためのモデルの改良(EOT11aモデル⇒FES2014モデル)、(6)SLR重力解の推定時の各SLR観測局の重量の最適化、(7)地球姿勢パラメータの更新(IERS08⇒IERS14)などに取り組む予定である。加えて、非保存性の接道モデルの試験や軌道生成計算誤差を抑制するアルゴリズムの試験なども並行して実施する。また、現在課題となっている1994-2000年の期間におけるSLR重力解の推定誤差は、SLR衛星の追尾データの欠如も大きな要因と考えられることから、本研究で未使用のままになっているGFZ-1衛星の追尾データなども追加して解析を進める。 以上のような再解析によって新たに導出したSLR重力変動解を、昨年度に実施したような逆解析手法によって、全球質量収支を再推定する。また現在、ヨーロッパの研究グループが中心となって、SLR重力変動解の相互比較と統合化に関する国際プロジェクトが進められている。我々も本プロジェクトに参画し、本研究のSLR重力変動解を提供することで、その更なる高精度化に向けた情報を収集するとともに、地球の重力変動の更なる理解への貢献を果たす。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度は、研究代表者が1年間の海外留学に赴いており、国内及び海外出張や物品購入が計画通りに行えなかったため、次年度に使用することとなった。 2019年度は、国内及び海外出張、論文投稿料等に予算を使用する予定である。
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