研究課題/領域番号 |
18K11633
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
兼保 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 研究グループ長 (00356809)
|
研究分担者 |
忽那 周三 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 上級主任研究員 (60344131)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 放射性核種沈着 / 雲水沈着 / ヨウ素 / 乾性沈着速度 / 地表面沈着 |
研究実績の概要 |
2011年3月15日の放射性物質大量放出で形成された関東北部~東北南部の山岳地帯での放射能汚染域に対する雲沈着の寄与の判定を行うため、実際のフィールドデータを用いた花粉センサーデータ処理の検討を行った。昨年度より雲粒存在の判定基準を厳しく設定し、偏光解消度Dep<0.17にデータプロットが入る場合に雲粒が存在したと判断して、関東北部での花粉センサー設置地点のうち最高高度にあった丸沼高原 (海抜高度1401 m) の3月15日の状況を解析した。同地点は15時以降は雲粒判定のカウントが圧倒的となり、この高度域が雲層内へに入ったことを示した。海抜高度842 mの赤城温泉では相対的に雲粒領域のカウント数が少なく、その検出時刻も遅くなっており、雲底高度が時刻とともに下がり、赤城温泉の高度は雲層の下端付近に入っていた当日の状況 (館野の高層ゾンデ観測結果) と整合した。以上より、実データに対して当手法の有効性が確認された。 また、住民の初期被曝量の算定において重要となる放射性ヨウ素の乾性沈着速度に関する基本データを得るため、6種類の粘土鉱物試料と1種類の土壌試料について、ヨウ素分子の取り込みとその反応条件依存性を観察した。二酸化炭素を添加した合成空気を一定流量で流しながら、反応容器(底面に粘土鉱物試料等を設置し、攪拌翼により気相部分を攪拌)にヨウ素分子を矩形パルス状に導入、反応容器通過後のヨウ素分子の可視吸収スペクトルをIBBCEAS法により4s間隔で測定、吸収スペクトルの時間変化をPLS法により解析し、ヨウ素分子気相濃度の時間変化を求めた。相対湿度 (20-80%)、みかけの試料接触面積等を変えて実験を行った (反応温度10℃) ところ、ヨウ素分子の粘土鉱物試料等への取り込み速度が、粘土鉱物試料のみかけの接触面積にほぼ比例すること、また、相対湿度が高くなると減少すること等がわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の研究で得られた偏光データ処理による水滴の判定条件は、実験室内での水滴の噴霧、および研究所のバルコニーにおける花粉・ローカル土壌粒子の卓越条件下でのセンサーのテスト結果から得られたものであり、山間部などに設置され長期間風雨にさらされた状態にあった震災当時のセンサーの実データに適用できるかどうかは、研究の今後の方向性を左右する重要な点であった。そのため、福島・群馬県境での実データが2011年3月15日午後の雲低高度の低下を捉えていたことは、本解析がセンサー設置地点での雲粒の存在の判定に使えることを示しており、研究は大きな進展をみた。また、2011年の3月中旬は関東ではスギ花粉飛散のピーク時期でもあり、スギ花粉と雲粒が同時に存在した場合の判別が実データで可能かどうかも課題であったが、赤城温泉のデータではDepが0.17付近でデータプロットが明確に分かれおり、この問題も解決された。 ヨウ素の乾性沈着速度推定の実験においては、ヨウ素分子が反応容器壁面に不可逆的に吸着し、その割合 (導入量の数十%) が大きいため、ヨウ素分子気相濃度の変化を精度よく観察できないことが、矩形パルス法実験の課題だった。しかし、実験条件を整えることにより、この課題を解決できた。すなわち、パージガス中に環境濃度の二酸化炭素を添加して容器壁面へのヨウ素分子の吸着量を半分以下に抑制すると共に、実験を数か月間継続実施して容器壁面をヨウ素分子に馴染ませた。その結果、よい再現性でヨウ素分子の気相濃度変化を観察できる実験条件を整えることができた。この実験条件で、複数の粘土鉱物試料等について、ヨウ素分子の気相濃度変化とその反応条件(相対湿度、粘土鉱物試料接触面積など)依存性を矩形パルス法実験により観察し、一連の実験データを取得した。一方、取り込み係数の算出など定量評価は未だできていない。以上から区分(2)とした。
|
今後の研究の推進方策 |
震災当時の実データによって有効性が確認された花粉センサーによる雲粒存在判定の手法を、本研究で購入した福島、栃木、群馬県内の全センサーのデータに対して適用し、その結果を文部科学省による航空機観測による放射性セシウムの地表面沈着マップと比較する。この際に問題となるのは、雲粒判定基準に入る粒子カウントが何個以上あった場合に雲内に実質的に入っていると判定するかという点であり、この基準については試行錯誤を繰り返すことにより設定していくことになる。また、実際の放射性核種の沈着は3月15日以外にも生じていたはずであり、その場合の影響を本手法で見分けることはできず、課題実施者が購入していた3月15日以外日の花粉計データについてはデータ取得業者が保管を終了してしまったため、同様の手法を他の日に対して実施することも、もはや不可能であるのが難点である。 取得した一連の実験データを定量評価し、土壌表面に対するヨウ素分子の乾性沈着地表面抵抗を推定する。具体的には、矩形パルス法実験における反応容器内のヨウ素分子の気相-粘土鉱物試料間の挙動 (取り込み、放出または反応など) についてモデルを作成し、取り込み速度等をパラメータとしてシミュレーション計算を行い、ヨウ素分子気相濃度の時間変化を再現するパラメータ値を決定する。決定した値を用いて、環境条件におけるヨウ素分子の地表面への乾性沈着地表面抵抗とその相対湿度依存性等を推定する。推定では、粘土鉱物試料の観察結果 (取り込み速度が、ヨウ素分子を含む矩形パルスと接触した回数により減少した後、ほぼ一定となること) を考慮する。本研究の推定値と大気拡散モデルにおける採用値等を比較し、大気拡散モデルにおけるヨウ素分子の乾性沈着地表面抵抗の採用値の確からしさを議論する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ヨウ素の乾性沈着速度推定のための実験系の製作費が、当初の想定よりも低価格で実現できたことにより11万円の未使用分が生じた。これを翌年度分として請求した助成金と合わせ、データ解析の補助のための契約職員あるいは派遣職員の雇用費の一部として使用することを予定するが、論文の準備状況によっては論文校閲、投稿料の一部として使用することも検討する。
|