研究課題/領域番号 |
18K11634
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
天川 裕史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム, 特任主任技術研究員 (60260519)
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研究分担者 |
臼井 朗 高知大学, 海洋コア総合研究センター, 特任教授 (20356570)
後藤 孝介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (30612171)
鈴木 勝彦 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, 研究開発センター長代理 (70251329)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マンガンクラスト / ネオジム同位体比 / 海水 / 拓洋第5海山 |
研究実績の概要 |
数千万年オーダーの過去の海洋循環の復元は、新生代の気候変動を理解する上で極めて重要である。その理解を目的とし、この時間スケールの過去の海洋情報を記録するマンガンクラストの研究はなされてきた。しかしながら、各々の試料の採取位置は同一大洋内でも互いに遠く離れており、統一的な解釈は困難な状況にあった。本研究は、同一海山の異なる水深から採取したマンガンクラストを用い、同一時代、同一測点における異なる水深での古海洋循環の復元、そして統一的な解釈を行うことを目的としている。 マンガンクラストを用いた古海洋循環の復元には主にネオジム(Nd)同位体比および鉛(Pb)同位体比の時系列データが用いられる。その際、分析に供するサンプルがその目的にふさわしいものか検証することは極めて重要である。そこで、海水試料の測定が相対的に容易であるNd同位体比を用い、マンガンクラスト表面とそれと直接接触している海水のNd同位体比を比較し、古海洋循環の復元に使用可能かどうか検証を行った。用いたマンガンクラスト試料は北西太平洋に位置する拓洋第5海山の水深970mから5400mで採取したものである。一方、海水試料に関しては拓洋第5海山周辺の2測点から採取したものを用いた。そして、マンガンクラスト表面と海水のNd同位体比を比較したところ、両者は誤差範囲内でほぼ一致した。これは、マンガンクラスト表面のNd同位体比は同じ深度の海水の値を反映していることを意味する。従って、拓洋第5海山から採取したマンガンクラストは古海洋循環の復元に供する条件を十分満たしているものと判断される。 また、研究調査船「かいれい」のKR18-11C航海に参加し、拓洋第5海山と同じく北西太平洋に位置する拓洋第3海山から幾つかの水深でマンガンクラストの追加のサンプリングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
拓洋第5海山より採取したマンガンクラスト表面のNd同位体比はいずれの水深においても、同じ水深の海水の値を反映されていることが検証された。従って、Nd同位体比分析を行った全てのマンガンクラスト試料に関して、古海洋循環復元に供することが可能であることが確かめられた。こうした試料の幾つかに関しては、研究分担者の一人である高知大学の臼井がベリリウム(Be)同位体比(Be-9/Be-10)による年代決定を既に行っている。従って、Nd同位体比さらにはPb同位体比の時系列データを得ることが可能な状況にある。 一方、拓洋第3海山より採取したマンガンクラストについては前述の臼井が作成した表面の粉末試料を入手しており、こちらについても拓洋第5海山の試料同様、Nd同位体比の分析をし、海水の値との比較を行うことが可能である。そして、この粉末試料を用いマンガンクラストの年代決定をBe同位体比ないしオスミウム(Os)同位体比(Os-187/Os-188)を用い行う準備も整った。 以上を総合的に判断すると、研究の進捗状況は概ね順調と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
拓洋第3海山から採取したマンガンクラストに関しても、拓洋第5海山から採取した試料同様、マンガンクラスト表面と海水のNd同位体比の比較を行い、古海洋循環復元のための試料としてふさわしいか検証を行う。また、拓洋第3海山のマンガンクラスト試料についてはまだ年代決定がなされているものがないので、Be同位体比ないしOs同位体比を用いて年代決定を進める。 拓洋第5海山のマンガンクラスト試料に関しては、年代が決定されている試料を用いNdとPb同位体比の測定を行い同位体比の時代変化を明らかにする。そして、そのデータに基づき海洋循環の復元を試みる。なお、Pb同位体比の分析を主に担当する研究分担者の一人である産業技術総合研究所の後藤が海外留学で2019年度は不在のため、当面は主にNd同位体比の分析を進めていくことを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者である鈴木勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構)から効率的に研究を進めるため、次年度にまとめてマンガンクラストのOs同位体比分析を行う目的で分担金の全て(50,000円)を次年度に繰り越し使用したいとの要望があった。 また、同じく研究分担者である臼井朗(高知大学)からは、外部機関に発注したマンガンクラストのBe同位体比の分析結果が年度内に間に合わない恐れがあるので、次年度に支払いを行うべく分担金の全て(250,000円)を繰り越して使用したいとの要望があった。
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