精巣内で起きた断続的な炎症が精子形成能および精子性状に及ぼす影響を調べた。まず、成熟雄マウスの腹腔内にリポ多糖(LPS:0.5 mg/kg体重)を単回投与したとき、精巣内で起きる炎症の持続期間を検討した。また対照群には等量の生理食塩水を投与した。LPS投与後、体重は10%程度減少したが、投与後72時間後には投与前と同程度まで回復した。また、精巣でのIl-1b相対発現量はLPS投与後48時間までは対照群に比べ高い値を示したが、投与後72時間で対照群と同程度にまで減少した。この結果から、精巣内での断続的炎症を誘起するために96時間間隔で計10回のLPS投与を行った。単回投与と同様、LPS投与の翌日に体重の減少が見られたが、投与の回数を重ねるごとに減少幅は小さくなった。LPS投与は精巣重量に影響しなかった。投与終了後の精巣におけるIl-1b相対発現量では、対照群とLPS投与群の間に有意な差は見られなかった。一方で、インフラマソーム構成分子であるNlrp3および精子形成マーカーであるDdx4相対発現量では、共にLPS投与群が対照群の約2.8倍となり、有意に高くなった(P<0.05)。精子運動解析を行ったところ、直線速度(VSL)、曲線速度(VCL)、平均速度(VAP)は対照群とLPS投与群の間に有意な差は見られなかった。コメットアッセイにより精子DNA正常性を比較したところ、LPS投与群に極端なDNA損傷は見られなかった。体外受精後の受精率は対照群で58.6%であったのに対し、LPS投与群で11.6%となり、LPS投与により有意に低くなった(P<0.05)。作出された受精卵の発生動態に差異は見られなかったが、4細胞期(対照群:82.8%、LPS投与群:68.3%)以降の発生率が低下した。以上から、精巣内での断続的な炎症により生産される精子の受精能が低下することが明らかとなった。
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