研究課題/領域番号 |
18K11638
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
金尾 梨絵 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (30542287)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | DNA損傷トレランス / 翻訳後修飾 / PCNA |
研究実績の概要 |
DNA上に損傷が生じるとDNA複製の進行が妨げられる。生物にはDNA複製を円滑に進行するためにDNA損傷があってもDNA複製を継続する「DNA損傷トレランス」という仕組みが備わっている。DNA損傷トレランスには二つのサブ経路があると考えられており、一つは損傷乗り越え複製(TLS)で、もう一方はテンプレートスイッチと呼ばれている。TLSは損傷のあるDNAを鋳型としてDNA合成を行うことができる特殊なDNAポリメラーゼ(TLSポリメラーゼ)により、DNA損傷部位のDNA合成を行うことでDNA複製の阻害を回避している。DNA損傷トレランスの制御に重要な役割を果たすのがDNA複製の必須因子であるPCNAである。PCNAはホモ3量体からなるリング状の構造をとり、中央にDNA二本鎖を通す。PCNAの164番目のリジン(K164)の翻訳後修飾がDNA損傷トレランスの制御機構に関与しており、モノユビキチン化がTLSを促進することが知られている。本研究課題でははPCNAのホモ3量体すべてのリジンに翻訳後修飾が起こる「マルチ翻訳後修飾」で制御されるDNA損傷トレランス機構の解析を行っている。 紫外線損傷やシスプラチン損傷ではTLSが主要なDNA損傷トレランスの経路であり、マルチ翻訳後修飾で制御される経路の寄与は小さいため、本研究計画ではマルチ翻訳後修飾で制御される経路の寄与が比較的大きいDNA損傷剤であるセスキテルペン化合物を用いて解析を行っている。本研究課題の遂行により、新たなDNA損傷トレランス経路が明らかになる可能性があり、当該分野の発展に寄与できると考えている。 昨年度このセスキテルペン化合物に対する細胞生存に関与する因子のスクリーニングを行い、複数の候補因子を得た。本年度はこれらの候補因子の解析を進めた。発現抑制細胞を用い、DNA損傷剤に対する応答を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画で使用しているセスキテルペン化合物を用いることで、PCNAのマルチ翻訳後修飾で制御されるDNA損傷トレランス経路に関与すると考えられる複数の候補因子を得ている。候補因子の中からこのセスキテルペン化合物に高感受性を示し、セスキテルペン化合物添加後のDNA複製に影響があり、さらにPCNAの翻訳後修飾依存的に働く因子を見出すことができた。 見出した因子がDNA修復機構のひとつに関与することが報告されており、当初の計画には組み込まれていなかったものの、そのDNA修復機構と本研究計画で用いているセスキテルペン化合物との関連を調べる必要が生じており、解析を進めている。また、当初の計画どおり、本研究計画で用いているセスキテルペン化合物で生じるDNA損傷が修復されるDNA修復経路と、本研究計画で見出した因子との関連を解析することも進めている。 上記のように、新規DNA損傷トレランス経路に関与する候補因子の詳細な解析に着手しており、おおむね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度までに見出した新規DNA損傷トレランス候補因子が、本研究計画で用いているセスキテルペン化合物に対してどのような役割を果たしているのかを引き続き解析していく。有力な候補因子は2つ見出しており、それぞれが独立に働くのか、同じ経路で働くのかなど詳細に解析していく。 2つの因子のうち、1つの因子についてはノックアウト細胞の作製を行っており、この細胞の解析を中心に進めていく。もう1つの因子に関しては、ノックアウト細胞の作成が困難であったため、siRNAを用いた発現抑制細胞の解析を進めていく。 これらの候補因子が本研究計画で用いているセスキテルペン化合物で生じるDNA損傷を修復する修復機構と関連するかどうかを解析する。また、候補因子が関与することが報告されているDNA修復機構と本研究計画で用いているセスキテルペン化合物の関連を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新規DNA損傷トレランス経路に関与する可能性のある因子を見出すなど研究計画は順調に進行しているが、見出した因子の既知の機能との関連を解析するため、当初の計画にはなかった因子のノックダウン実験などを次年度に行う必要が生じた。それにより、ノックダウン実験に用いる複数のsiRNAや抗体の購入を次年度に計画したため、次年度使用額が生じている。
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