研究実績の概要 |
放射線等により生じるゲノム損傷は生体にとり有害であるため、生体にはその防御機構としてDNA損傷応答(DDR)が存在する。その中心分子はATMとATRキナーゼであるが、本課題ではATRに注目した。 DNA損傷応答によりDDR因子やDNA修復因子がDNA損傷部位に集積し、細胞核にドット状に局在することが知られている。これを核内フォーカスと呼ぶ。ATRはATRIPと複合体を形成し、DNA複製ストレスで活性化され、これまでに少なくとも2つの活性化機構が存在することが知られている。 研究代表者はATR-ATRIP活性化機構が他にも存在するのではないかと考え、新たなATR-ATRIP活性化を解析する目的で、ATRIP-GFPを安定に発現するヒト肺がん細胞株A549細胞を用い、DNA複製ストレス下でのATR-ATRIP活性化の検出系を構築した。具体的には、複製ストレス下で、ATR-ATRIP活性化をATRIP-GFPのフォーカス形成として、複製ストレスの初期反応を反映する一本鎖DNAの生成をその部位に結合するRPAフォーカスとして検出する系を構築した。この系を用い、複製ストレスを与える抗がん剤処理でsiRNAライブラリースクリーニング(471遺伝子)を行い、ATRIP,RPAのそれぞれのフォーカス形成効率に影響する候補分子を探索した。1次スクリーニングとして、マイトマイシンC(MMC)24時間処理を行い、蛍光強度が1/4以下に減少したものを有意として77個の候補分子を得た。2次スクリーニングとしてヒドロキシウレア(HU)2時間処理にて検討を行い、29個の候補分子を得た。 これらの候補分子について発現プラスミドを構築し、発現細胞での検討を行っている。目的の候補分子は、ATRIP、RPAの挙動とよく一致することが期待されるが、予測する表現型を示す候補分子に行きついておらず、さらに検討を重ねている。
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