研究課題/領域番号 |
18K11645
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
山内 基弘 長崎大学, 原爆後障害医療研究所, 助教 (60437910)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Chromosome rearrangement / DNA double-strand break |
研究実績の概要 |
放射線被ばくによって起こる最も重大なゲノム変化のひとつにChromosome rearrangement(CR)があるが、その生成・生成抑制の分子メカニズムはよくわかっていない。CRはゲノム内の異なる領域に生じた2つのDNA二本鎖切断(DSB)のつなぎかわりによってできるため、CR生成には2つのDSBが動いて近接する「DSBペアリング」が必要である。しかしこのDSBペアリングについては、これまでほとんど報告がなかった。私は最近、γ線照射したヒト細胞でDSBペアリングを可視化する実験系を樹立し、Ku80, DNA-PKcs, ATM, 53BP1の4つの因子がDSBペアリングを制御していることを明らかにした(Yamauchi et al. Sci. Rep. 2017)。しかしこれら4因子以外にもDSBペアリング制御にかかわる因子が存在する可能性は高く、DSBペアリングの制御メカニズムの全容はわかっていない。そこで本研究では、新たなDSBペアリング制御因子をスクリーニングにより見つけ、どの因子がどの因子と協力しているかという、DSBペアリング制御の分子ネットワークまでを明らかにするのが目的である。2019年度は2018年度にDSBペアリングの頻度に影響を与えていることが分かった、ヘテロクロマチン構成因子KAP1およびCHD3についてさらに検討を行った。53BP1をノックダウンするとDSBペアリングの頻度は減少するが、興味深いことにKAP1あるいはCHD3も同時にノックダウンとDSBペアリングの頻度は回復することが分かった。53BP1はヘテロクロマチンにDSBができた際、クロマチンを弛緩させることによりDNA修復因子がDSBにアクセスしやすくすることから、53BP1によるヘテロクロマチン弛緩が何らかのメカニズムでDSBペアリングに関与していることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度の当初の計画は、siRNAスクリーニングにより同定されたDSBペアリングの頻度に影響を与える因子同士の協力関係を調べることであった。そこで2019年度は、2018年度のスクリーニングによりDSBペアリングの頻度に影響を与えることが明らかとなったヘテロクロマチン構成因子KAP1およびCHD3と、以前からDSBペアリングの頻度に影響を与えることが分かっている53BP1との関係を調べた。その結果、53BP1をノックダウンした時に減少するDSBペアリングの頻度が、さらにKAP1あるいはCHD3を同時にノックダウンすると回復することが分かった。これは53BP1が普段DSBペアリングを促進する際、KAP1およびCHD3を標的としていることを示唆するデータであり、DSBペアリングの頻度に影響を与える因子同士の関係を解明する上で重要な知見である。このことから研究の進捗状況はおおむね順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究により、53BP1はヘテロクロマチン構成因子であるKAP1およびCHD3に何らかの影響を及ぼすことにより、DSBペアリングを促進していることが示唆された。一方、DSBペアリングが有害な遺伝子融合を引き起こすのは、遺伝子密度がより高いユークロマチン領域である。そこで今後は、ユークロマチン領域においても53BP1がDSBペアリングを促進しているのかどうかを調べる。またKu80, DNA-PKcs, ATMによるDSBペアリングの抑制が、ユークロマチン領域に限って見た場合どうなっているか、そしてユークロマチン領域においてもDSBペアリングを抑制している場合、これらの因子の協力関係を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画で購入する予定であった物品の価格がキャンペーンのため値下がりし、そのために23円の未使用額が生じた。蛍光免疫染色実験に必要なカバーガラスの購入に充てる予定。
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