研究実績の概要 |
放射線被ばくによって起こる最も重大なゲノム変化のひとつにChromosome rearrangement(CR)があるが、その生成・生成抑制の分子メカニズムはよくわかっていない。CRはゲノム内の異なる領域に生じた2つのDNA二本鎖切断(DSB)のつなぎかわりによってできるため、CR生成には2つのDSBが動いて近接する「DSBペアリング」が必要である。しかしこのDSBペアリングについては、これまでほとんど報告がなかった。私は最近、γ線照射したヒト細胞でDSBペアリングを可視化する実験系を樹立し、Ku80, DNA-PKcs, ATM, 53BP1の4つの因子がDSBペアリングを制御していることを明らかにした(Yamauchi et al. Sci. Rep. 2017)。しかしこれら4因子以外にもDSBペアリング制御にかかわる因子が存在する可能性は高く、DSBペアリングの制御メカニズムの全容はわかっていない。そこで本研究では、新たなDSBペアリング制御因子をスクリーニングにより見つけ、どの因子がどの因子と協力しているかという、DSBペアリング制御の分子ネットワークまでを明らかにするのが目的である。2020年度は、遺伝子密度が高いユークロマチン領域におけるDSBペアリングの頻度を調べた。ユークロマチン領域とヘテロクロマチン領域を区別するため、DAPI染色によりヘテロクロマチン領域が濃く染まるマウス線維芽細胞を用いてDSBペアリングの頻度をユークロマチン領域とヘテロクロマチン領域とで比較した。その結果、DSBペアリングの指標として用いたmCherry-BP1-2フォーカスのペアリングの頻度は、ヘテロクロマチン領域と比べ、ユークロマチン領域で有意に低いことが分かった。これは遺伝子が多いユークロマチン領域においてDSBペアリングを抑制するメカニズムが存在することを示唆する結果である。
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