研究課題/領域番号 |
18K11649
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研究機関 | 産業医科大学 |
研究代表者 |
大津山 彰 産業医科大学, 医学部, 准教授 (10194218)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂肪幹細胞 / ADSC / 放射線骨髄障害 / 幹細胞移植 / 放射線障害回避 |
研究実績の概要 |
Aグループ:ICRメスマウスにX線7Gyを全身照射した直後に、ICRオスマウスのADSC(脂肪幹細胞)を伏在静脈 (1X10^6個/500μl,iv)あるいは腹腔内(2.5X10^6個/1ml,ip)に投与し、生存率を経時的に観察した。またADSC培養上清中のエクソソームやマイクロソームも組織再生効果を示すとの報告があったので、ADSC培養上清移植群(培養上清2mlX5日,ip)も設定し実験を行なった。 iv移植群は6Gy(移植群65匹、非移植群42匹)、6.5Gy(移植群43匹、非移植群24匹)、7Gy(移植群40匹、非移植群20匹)群を設定し実験を行なった。7Gy照射群は照射線量が高すぎて移植群と非移植群間の生存率に有意差はみられなかった。6.5Gy照射群は現在経過観察中で解析できる日数に到達していない。6Gy照射群は約300日を経過観察中であるが、この時点で移植群(生存率54%)と非移植群(生存率27%)の両群間に有意差がみられている。 ip実験群は7Gy(移植群25匹、非移植群50匹)群を設定し実験を行い、ADSC培養上清移植群は7Gy(移植群25匹、非移植群50匹)群を設定し実験を行なったが、移植群と非移植群間の生存率に有意差はみられなかった。 Bグループ:C57BL/6メスマウスにX線6.5Gy全身照射した直後に、C57BL/6オスマウスのADSCを伏在静脈 (1X10^6個/500μl, iv)に投与し(移植群69匹、非移植群48匹)、生存率を経時的に観察中である。 ここまでの実験で、生存率の差をみるためには6~6.5GyのX線全身照射が至適線量であることがわかった。ip移植ではiv移植の2.5倍のADSCを移植したが効果はみられなかった。ADSC培養上清移植群でも効果はみられず、移植細胞数やエクソソーム等の濃度を上げるなどの検討が必要であると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H30年度はADSCのiv移植だけではなく、ip移植や予定外の実験であるADSC培養上清移植を行なったが、iv移植群以外では移植群と対照群間の生存率に有意差はみられなかった。ip移植やADSC培養上清移植では移植細胞数や培養上清の濃縮等実験条件の検討を行う必要があるが、本研究はADSCのiv移植で放射線被ばくマウスの骨髄障害回避をみるのが狙いなので、31年度以降は予定通りBグループの条件で実験を進めていく。 進捗状況はAグループでn数が200匹以上となり、Bグループもすでにn数は100匹となっており、実験は予定通り進んでいる。照射線量検討のための実験では、同じX線全身照射線量に対しマウス放射線感受性にロット差がみられたものの、至適線量は7Gy以下6Gy前後ということが示唆された。 セルソーターを用いてADSCのみを選択収集し培養を行うプレ実験も行っており、ADSCマーカーとしてCD44+、Sca-1+、CD117-を用いることとした。移植細胞のメスレシピエント体内での動態を観察する目的で、オス由来ADSCを移植することによりY染色体上のオスマーカー遺伝子を検出するプレ実験も行い、マーカー遺伝子には予定していたSRY遺伝子やEif2s3y遺伝子ではなく、Ssty2遺伝子がマウスの場合有用であることをみいだした。同様に移植細胞のメスレシピエント体内での動態を観察する目的で、生体染色色素PKH26を用いADSC幹細胞を培養中に染色したのちiv移植を行う準備もしている。また、目的臓器の機能細胞と幹細胞を混合して移植を行うと、目的の臓器で効率よく再生が行われるとの報告があり、我々も骨髄細胞とADSC混合移植を試すために、マウスの骨髄細胞の効率的な回収方法と培養方法の実験条件策定のためのプレ実験も行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
H31年度以降は申請書に示した通り、グループBの実験を継続しn数を増やして、ADSCのiv移植が確実にマウス放射線被ばく群に対し延命効果があることを明確に示していく。これらの実験と並行して、セルソーターでADSCのみをCD44+、Sca-1+、CD117-をマーカーにして抽出後培養してからiv移植を行い延命効率を上げる実験を行う。また、延命効率を上げる実験として骨髄細胞とADSC混合移植を試みる計画も進めていく。 延命効果の機序を解析するためにまず移植細胞のメスレシピエント体内での動態を観察する目的で、iv移植後レシピエントから継時的に臓器を取り出し、Y染色体マーカーであるSsty2遺伝子を目印にして、リアルタイムPCRを行い分子生物学的な解析を行う。さらに、生体染色色素PKH26を用いADSCを培養中に染色したのちiv移植を行って、レシピエントから移植後継時的に臓器を取り出し組織学的な解析も行うこととしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は培養液上清移植実験を加えたので、物品費が予定金額を上回ることとなった。旅費はなるべく格安チケットを購入するように努めたのと学会開催場所が比較的近郊で行われたので予定金額を下回ることができた。物品費にはマウス飼育費が含まれるが、照射線量の高い実験グループで予想より早い時期にマウスが死亡していったので、結果としてその期間の飼育費がかからなかった。本年度未使用額は次年度の国際学会参加旅費(マンチェスター)と合わせて使用する予定にしている。
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