研究課題/領域番号 |
18K11650
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研究機関 | 富山高等専門学校 |
研究代表者 |
阿蘇 司 富山高等専門学校, その他部局等, 教授 (30290737)
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研究分担者 |
原 正憲 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (00334714)
藤原 進 京都工芸繊維大学, 材料化学系, 教授 (30280598)
平野 祥之 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 准教授 (00423129)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モンテカルロ計算 / Geant4-DNA / DNA損傷 / トリチウム / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
本研究は、量子化学・分子動力学計算による知見を組込んだDNA損傷の確率的計算モデル開発を目的としている。今年度は、トリチウム水での低エネルギー・ベータ線によるDNA損傷に関して、(1)直接作用によるDNA損傷判定条件についてエネルギー付与閾値と鎖切断(SB)との関係、(2)直接作用と間接作用を考慮した一本鎖切断(SSB)と二本鎖切断(DSB)の比について、それぞれ異なる確率判定モデルを適用した。更に(3)水素の分子置換に関する試行実験に着手した。以下に概要を示す。 (1)Geant4-DNAによりベータ線の空間エネルギー付与を計算し、DNA原子配列と対応付けて、五炭糖またはリン酸塩基の構成原子の実効体積内に閾値以上のエネルギーが付与された場合にSBが生じると仮定した。エネルギー閾値が高いと、指数関数的にSSB数とDSB数が減少した。他研究でも閾値は未確定であり、測定との比較が望まれる。間接作用については、DNA構成原子とラジカルの分子動力学計算による動体解析を行っており、Geant4-DNAへの計算結果の導入を進めている。 (2)直接作用、間接作用の両方を考慮したDNA損傷の計算法として、J.C.Fosterらによる空間クラスタリング法を適用した。この計算モデルは五炭糖での反応に加えて、塩基との反応後に五炭糖へラジカル移行が生じる反応の連鎖機構がモデル化されている。本研究では、トリチウム崩壊ベータ線において、SSB/DSB比が原論文と矛盾ない結果が得られることを確認した。 (3)水中の水素同位体がDNA分子の水素(H)に置換して影響を与える可能性を調査するため、重水素(D)にアミノ酸を溶かした溶液にCo-60のガンマ線を照射して、乾燥後に赤外線吸収スペクトル測定を行った。アミノ酸でHとDの置換が行われたことを確認した。詳細な解析のために分子動力学計算との比較等を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究組織の中で、多様な計算方法並びに実験を取り入れて、それらの活動が有機的に並行して進んでいる。Geant4-DNAによるモンテカルロシミュレーションを基盤として、2つの確率計算モデルでの計算手法開発が進んでおり、相互に結果を比較検討することで新たな知見が得られる可能性が大きい。同時に、分子動力学計算に関する結果や支援を他機関から得られる体制が構築されており、本研究課題を基盤としつつ研究を発展させるための研究体制が整っている。 得られている成果を、学会や論文等として発表することを検討しており、研究は概ね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により、直接作用での判定条件がDNA損傷の見積もり結果に与える影響を、DNA分子構造を導入したモンテカルロシミュレーションGeant4-DNAを用いて定性的に評価した。並行して評価を行っておる空間クラスタリング法の確率モデルでは、DNA構造は円筒形の模擬的な形状を仮定しているが、判定条件としては間接作用でのラジカル反応確率、DNA分子内でのラジカル移行による損傷確率など、DNA損傷にいたる過程を包括的に考慮している。これら2つの計算モデルは、粒子追跡法に基づき計算するか、簡易形状モデル条件下で確率統計的に計算するかの違いがある。本課題では、前者の粒子追跡法に基づく計算を基礎と考えているため、後者の空間クラスタリングモデルの計算手法を、前者の計算モデルの枠組みに導入することを今後の目標とする。 同時に、分子動力学計算による結果から、OHラジカルの滞留確率が高いDNA分子内サイトが明らかになっている。OHラジカルによる水素原子の引き抜き、分子のラジカル化、そしてラジカルのDNA分子内移行、鎖切断と複雑な過程をとることが考えられるが、その発端はOHラジカルのDNA分子への接触であり、滞留確率は非常に重要な条件であると考えている。 今後の予定として、(1)粒子追跡法と空間クラスタリングモデルを統合したシミュレーションの開発、(2)開発コードと空間クラスタリングモデルの比較、(3)OHラジカルのDNA分子への滞留確率を取り入れた評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年始から年度末に開催される学会・研究会での成果報告等を予定していたが、COVID-19の感染拡大防止のため、出張の自粛や会合の中止、あるいはWeb開催による出張取りやめ等により、予定通りの経費執行ができなかった。 来年度は、これらの未発表の研究成果について国内学会、国際学会、論文投稿で発表する予定であり、そのための旅費や参加登録費を中心に充当する計画である。
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