研究実績の概要 |
現代においては不規則な生活時間が常態化している場合があり、健康への影響が懸念されている。航空機乗務員は高いレベルの自然放射線に曝され、医療関連業務は放射線被ばくの機会のある環境であり、放射線によるリスクへの生活リズムの乱れの影響を評価することは喫緊の課題といえる。本研究では1日の光周期時間を変えて飼育し時差ボケ状態を生じさせたマウスを用いる。光を浴びることでその生成が抑制され生体内のリズムを司っているメラトニン生成が認められるB6C3F1マウス(F1マウス)と認められていない系統C57BL/6Jマウス(B6マウス)での、生活リズム変化を生じた状態での放射線影響の修飾効果を解析し、メラトニン, 光周期の放射線影響における役割を明らかにする。これまでに放射線被ばくしたマウスの肝臓等における代謝制御因子の変化の解析を行い、抗酸化に関わる分子が照射後に量的変化を起こし、それはマウス系統によらず観察時間で変化すること、時差ボケでその変化が消失したこと、またアミノ酸の1種が時差ボケ飼育時の照射で減少し、B6マウスでは見られないことなどを明らかにした。さらにmicroRNA(miRNA)の解析に着手し、最終年度ではmiRNAの解析とともに炎症性因子の解析も行った。miRNAでは照射による変化への生活リズムの修飾効果が明確なものは見いだせなかったが、炎症性因子のひとつにB6マウスで時差ぼけ飼育時照射でのみ修飾効果が見られる因子を見出した。F1マウスを用いた影響の長期観察は継続中であるが体重変化をみると時差ぼけ条件飼育は体重を減少させる傾向がみえた。時差ボケは放射線影響に修飾し、日周性を持った放射線照射後の持続的な変化がみられた抗酸化物質の変化など興味深い知見を得た。今後は見出された因子を手掛かりに、時差ボケ時における放射線被ばく影響の修飾効果について更に検証していくことを考えている。
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