研究実績の概要 |
原発事故などでは、低線量放射線による発がんリスク評価が最重要課題である。しかしながら、100 mSv以下の発がんリスクは明確に示されていない。組織幹細胞は発がんにおける重要な起源細胞であり、低線量被ばくによる幹細胞の挙動を精確に捉えることは、発がんメカニズムに基づく低線量被ばくのリスク解明につながる。 幹細胞動態研究では、近年、幹細胞系譜トレーシング解析技術と組織透明化処理による三次元免疫組織化学的観察技術が確立された。幹細胞系譜トレーシング解析技術は、幹細胞で顕著に発現する遺伝子のプロモーター活性を持つ細胞を標識し、その子孫細胞をマウス体内で追跡する実験手法である。 本研究では、幹細胞系譜トレーシング解析技術と組織透明化処理による三次元免疫組織学的解析技術を用い、幹細胞とその子孫細胞をマウス体内で追跡することで、放射線誘発乳がんメカニズムにせまることを目的としている。 今年度は三次元免疫組織学的解析法の検討を行った。組織透明化については、Clarity(Chung et al., Nature, 2013)、SeeDB(Davis et al, Nat Commun, 2016)、FUnGI(Rios et al., Cancer Cell, 2019)等の手法を用い、マウス乳腺組織を透明化することができた。免疫蛍光染色は前述のDavisらの報告を参考に行うことで、マウス乳腺組織におけるケラチン14やケラチン8などについて共焦点蛍光顕微鏡で可視化することができた。 また、昨年度導入したマウスのうち、ケラチン14のプロモーターの下流にCreリコンビナーゼが発現するマウスと、ConfettiマウスのF1マウスについて、タモキシフェンを投与し、条件検討を行ったが、現時点では蛍光タンパク質を発現する細胞を見出すことができていない。
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