放射線により誘発されたDNA二本鎖切断損傷(DSB)は生体にとって最も重篤なDNA損傷であり、もし修復することができなかった場合には細胞死や細胞老化などの原因に、また、もし生殖細胞や組織幹細胞で正確に修復できなかった場合には遺伝病や発がんの原因にもなりうる。ヒトや齧歯類の培養細胞などを用いた解析の結果から、 哺乳類の細胞においては、DSBは主に非相同末端結合(NHEJ)と相同組換え(HR)の2つの機構によって修復するとされている。一方、生体内では、DSBを修復する2つの機構はより複雑な調節を受けていると予想されるが、損傷直後から始まる修復過程を生体内で検出する方法は未開発であるため、ほとんど解析がなされていない。最近、私達はNHEJ機構を生体皮膚で検出し、トレースするためのDSBセンサーマウスの開発に成功した。本研究では新たなDSB修復センサーマウスを開発するための基礎研究を進めるととともに、生体内で損傷直後から始まるDNA修復の分子機構を非侵襲的にリアルタイムに解析することを通じて、DNA修復に関わる未解明な生理的意義を提示したいと考えている。本年度は、新たなDSB修復センサーマウスの作成を継続して行なった。また、マウスのDSB修復に関わる蛋白質を非侵襲的にリアルタイムに解析するために、緑色蛍光蛋白質(GFP)と融合させたマウスRad54などをマウス上皮細胞等に導入するなど、解析を進めた。
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