研究課題/領域番号 |
18K11657
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研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
阿南 弥寿美 昭和薬科大学, 薬学部, 講師 (40403860)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | セレン化合物 / 水銀 / LC-ICP-MS |
研究実績の概要 |
必須微量元素の一つであるセレン(Se)は自然界において様々な化合物として存在しており、ヒトは食物からセレノメチオニン(SeMet)などのセレノアミノ酸を摂取し、セレン栄養源として利用している。また、広く魚介類に含まれるセレノネイン(SeN)や、動物のセレン代謝中間体であるセレノシアン酸(SeCN)もセレン源として生体利用されると考えられる。セレンは生体内でセレンタンパク質として機能する他、水銀など毒性重金属の解毒作用を有することが知られている。本研究では、水銀化合物の体内挙動や毒性軽減への天然セレン化合物の関与を検証することを目的としている。 初年度は、ラットを用いた予備的な動物実験において関係が示唆されていたSeCNと無機水銀の相互作用について、高速液体クロマトグラフィー/誘導結合プラズマ質量分析計(LC-ICP-MS)による化学分析および各種毒性マーカーの測定による評価を行った。その結果、SeCNの投与は水銀の体内蓄積を引き起こすにも関わらず、肝および腎毒性の発現を抑制することが示された。次に、SeNの生体内挙動について、魚類から抽出したSeNをラットに投与し検討したところ、SeNはSeMetに比べセレンタンパク質への利用率が低いことが示唆された。 また、これまで我々のグループでは主にラットを用いた動物実験を行ってきたが、分析機器の高度化により、より少ないサンプル量でも高感度分析が可能となったことから、ラットに比べ飼育コストの低いマウスを用いた研究の展開について検討した。マウスにおける基礎的なセレン代謝情報を得るために、代表的な食餌性セレン栄養源であるSeMetの投与実験を行った。得られた結果より、セレンの体内分布やセレンタンパク質への利用についてはラットで得られている知見と同様であったが、尿中セレン代謝物の生成率について、ラットとは異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
セレノネインの生体内挙動を明らかにする実験において、投与に用いるセレノネインは魚介類から抽出しているが、得られるセレノネイン収量に限りがあるため、ラットを用いた動物実験を多く行うことが困難であった。ラットよりも体重の小さいマウスを使用することで、投与のために調製するセレノネイン必要量も少なくなることから、初年度の検討を踏まえて用いる実験動物の変更を視野に入れたい。 また初年度には、研究の遂行に必要な分析機器について、共通機器および所有機器ともに修理が複数あり、これも研究の進捗が遅れた原因と一つとなった。 以上より、現在の進捗状況としては当初計画に比べやや遅れていると判断されるが、初年度に得られたセレノシアン酸と無機水銀を投与した実験の詳細な解析結果や、マウスへのセレノメチオニン投与実験におけるマウスセレン代謝に関する知見などにより、次年度以降の研究の展開にきわめて有用な情報を得ることができたので、2年目以降には進捗状況の遅れを回復できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果より、セレノシアン酸と水銀の相互作用を検討した研究において、LC-ICP-MS分析により水銀とセレンの複合体形成の可能性が示された。今後はこの複合体について、エレクトロスプレーイオン化四重極飛行時間型質量分析装置(ESI-Q-TOF-MS)を用いた化学形態同定を試みる。セレノネイン投与実験においては引き続き投与液調製段階での困難が生じると考えられるが、マウスを用いた実験が可能な項目、例として毒性影響評価などについては、使用する実験動物をマウスに変更する。 また、水銀化合物投与に関して、化合物そのものを動物に投与することが所属機関の審査により許可されなかったが、メチル水銀を多く含む魚類をラットに摂餌させる予備実験により、ラット体内への水銀蓄積が認められ、研究目的に沿った条件での投与実験遂行が可能であることを確認した。よって、セレン化合物と水銀化合物との同時投与実験においては、メチル水銀源として魚類調製液を使用し、ヒトにおける耐用摂取量を超えないように設定した水銀量を投与する。本研究課題の目的は、食事から摂取する天然のセレン化合物が、同じく食事から摂取する水銀の生体挙動に及ぼす影響を解明することであり、投与するセレンおよび水銀化合物を天然の魚類から調製することは、目的に合致した実験手法であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度には海産魚類から抽出・精製したセレノネインを実験に用いる計画であったが、ラットを用いた動物実験に用いる十分量の確保は難しかった。そこでマウスを用いた実験動物の検討を行ったため、当初計上していたラット購入に係る予算を、マウス飼育に係る経費(主に動物実験施設利用に係る費用)へと振り替えて使用したが、差額が発生した。また、分析機器を使用できない期間が生じたことから、機器分析用ガスや消耗品などに計上した予算に余剰がでた。 2年目にはマウスを用いた動物実験の実施、毒性試験に用いる各種試薬・消耗品、機器分析に用いるガスおよび消耗品に昨年度の差額分を充てる予定である。また、初年度に得られた成果を元に論文を投稿する。従って、期間内の経費執行に問題はない。
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