研究課題
本研究では、新たに提唱したPCBの血中T4濃度低下作用メカニズムの本質となるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体を解析し、本作用メカニズムの全容を解明する。今回、T4輸送タンパクであるトランスサイレチン(TTR)を欠損させた(TTRノックアウト)マウスに、市販のPCB混合物、Kanechlor-500(KC500)を投与し検討を行った。野生型(C57BL/6系)マウスおよびTTRノックアウトマウスにKC500投与後、血清中総サイロキシン(T4)および肝臓のT4レベルに対する影響を調べた。KC 500 (100 mg/kg)の単回腹腔内投与の4日後、血清中総T4レベルは、野生型マウスおよびTTRノックアウトマウスの両方において有意に減少した。 この時、両系統のマウスにおいて肝臓のUgt1a1の発現量は、KC 500により同程度に増加した。また、KC500前処置後、[125I]T4 を静脈内投与したマウスでは、両系統において血清中[125I]T4 のクリアランスが促進し、野生型マウスにおける血清中[125I]T4のクリアランスの促進は[125I]T4-TTR複合体形成の阻害なしに起こった。さらに、KC500前処置後、両方のマウスの系統において、肝臓重量、[125I]T4の定常状態の分布体積、[125I]T4の肝臓に対する血清の濃度比(肝臓におけるKp値)および[125I]T4の組織への移行、特に肝臓への[125I]T4の移行は有意に増加した。本研究の結果から、KC500による血清T4レベルの減少がTTR非依存的に起こることを示した。さらに、KC500による肝臓へのT4の蓄積の促進は、肝臓肥大の発症、血清から肝臓へのT4の輸送の促進および肝臓からT4の流出の抑制を通して起こることが示唆された。
3: やや遅れている
AhRリガンドのPCB (CB126、CB77)、CARリガンドPCB (CB153) およびAhRとCARの両リガンドのPCB (CB118)による血清中T4濃度の低下は、主に肝臓へのT4の蓄積量の増加に起因していることを示し、異なるタイプのPCBよるこの血清中T4レベルの低下作用メカニズムを新規セオリーとして提案した。さらに、肝臓へのT4の蓄積量の増加には、肝臓のT4流入トランスポーターの増加が関与していることを示唆した。一方、T4輸送タンパクであるトランスサイレチン(TTR)は血清中総T4レベルの恒常性において重要な役割を果たしている。PCBによる血清中T4レベルの減少のメカニズムを理解するためには、T4-TTR複合体形成に対するPCBの影響を調べることが重要となる。CB126、CB153、CB77およびCB118は、C57BL/6系マウスとDBA/2系マウスとの間で、PCBによるT4-TTR複合体形成の阻害に相違があり、PCB間でT4-TTR複合体形成に対する阻害活性に明らかな相違があることを示した。今回、PCBによる血清中T4レベルの減少のメカニズムをさらに理解するために、C57BL/6[TTR(+ /+)]系マウスおよびそのTTR欠損[TTR(- / -)]マウスを用いて、血清中総T4および肝臓のT4レベルに対するKanechlor-500 (KC500)の効果を先行させて調べた。その結果、KC500による血清中T4レベルの減少がTTR非依存的に起こることを示した。さらに、KC500による肝臓へのT4の蓄積の促進は、肝臓肥大の発症、血清から肝臓へのT4の輸送の促進および肝臓からT4の流出の抑制を通して起こることを示唆する有用な知見を得ることができた。
異なる核内レセプターに結合するPCB、それらを成分として含み「油症」の原因となったPCB混合物及びヒト血中の残留量が高い水酸化PCBを投与した動物を用いて、血清中甲状腺ホルモン濃度とともに、甲状腺ホルモンの血管側細胞膜から肝実質細胞への取り込み、肝細胞の側底膜から体循環への分泌、肝実質細胞の胆管側膜から胆汁中への排泄を解析する。次に、甲状腺ホルモントランスポーターを発現させた細胞を用いて、PCBによるT4の肝臓への蓄積メカニズムの実体解明を進める。異なるタイプのPCBの血清中T4濃度の低下に関わる甲状腺ホルモントランスポーターと薬物代謝酵素の協働関係を明らかにし、PCBによるT4濃度低下作用発現メカニズムの動物種差を解明する。さらに、ヒト由来試料を利用して、甲状腺ホルモンの変動を多角的に解析し、相互に関連付けて追求することにより、ヒトでのPCBの血清中甲状腺ホルモン濃度低下作用発現メカニズムを追究する。PCB及びphenobarbitalによる血清中T4濃度の低下において提唱した新規メカニズムである肝臓へのT4の蓄積量の増加の要因を、肝臓の甲状腺ホルモンのトランスポーターに焦点を当て、血清中甲状腺ホルモン濃度の低下に関わる薬物代謝酵素などの様々な作用を考え併せ、遺伝子組み換え動物も巧みに利用し、各種実験動物の結果を統合的に解析する。
甲状腺ホルモンの体内動態および血清中サイロキシンと甲状腺ホルモン輸送タンパクとの結合率に関する薬物動態学的in vivo実験と分子生物学的なex vivo実験において、実験テクニックが向上したため、試薬や動物及び実験試料をロスすることなく研究が進み、次年度使用額が生じた。研究をさらに進展させて、甲状腺ホルモンの血管側の細胞膜から肝実質細胞への取り込み実験、甲状腺ホルモンの肝細胞の側底膜および胆管側膜で働く排出トランスポーターの関与を明らかにする実験、ヒト甲状腺ホルモントランスポーター発現細胞を用いた実験ならびに甲状腺ホルモントランスポーターの役割を検証する実験、PCBによるラットの血清中甲状腺ホルモン濃度の低下に、肝臓と小腸におけるUDP-GTによる甲状腺ホルモンの代謝と、肝臓の甲状腺トランスポーターによる甲状腺ホルモンの取り込みおよび分泌とが、どのように協働関係を持つかを明らかにする実験を引き続き次年度に行い、さらに国際学会で研究成果の発表を行う計画であり、生じた次年度使用額はそれらの経費に充てることとする。また、大学からの研究費もこの研究の遂行に充当する。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Endocrine Disrupter News Letter
巻: 21-2 ページ: 4
Mar. Pollut. Bull.
巻: 137 ページ: 230-242
https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2018.08.051
http://kp.bunri-u.ac.jp/kph17/index.html