塩素化多環芳香族炭化水素類(塩素化PAHs)は塩素を含む食品の加熱や大気中のPAHsが同じく大気中の塩素と反応することにより生じる物質である。塩素化PAHsもPAHsと同様にアリルハイドロカーボン受容体を活性化し、DNA損傷を引き起こす可能性があると懸念されているが、ヒトへの最も主要な曝露経路である食品中の存在量や毒性メカニズムなどを対象とした研究はこれまでされてこなかった。本研究は、塩素化PAHsのヒトへの曝露量を評価するとともに、ヒト体内での酸化的代謝とそれに伴って引き起こされるDNA損傷性に注目して、塩素化PAHsのヒトへのリスクについて基礎的な知見を提供することを目的としている。 塩素化PAHの毒性ポテンシャルンついて調べたところ、食品含有量が多いと考えられる1-クロロピレンにおいて親物質よりもその代謝物の方が酵母に対する毒性を強く発揮したため、枯草菌Recアッセイ及びumuテストを実施してDNA損傷性を評価したが明確にDNA損傷性を持つという結果は得られなかった。一方、ヒトへの塩素化PAHsの曝露量評価を行うために食品中塩素化PAHs測定法の検討を行った。過去の報文からおおよそのPAHsおよび塩素化PAHsの食品中含有量を推定し、その推定含有量を測定可能な感度を持つPAHs16種類および塩素化PAHs9種類の同時分析系を確立した。そこで前年度に引き続き食品からのPAHs抽出法を検討した。非加工食品においてはQuEChERS法を用いた前処理が可能であったが、より多くPAHsや塩素化PAHsを含むと考えられる、本研究で研究対象としている加工食品では十分な油脂の除去ができなかったため効果的な前処理法確立できなかった。
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