研究課題/領域番号 |
18K11664
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
渡辺 誠 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (50612256)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 窒素飽和 / 指標 / 被食防衛 / 樹木生理生態学 / 大気汚染 / コナラ / 成木 |
研究実績の概要 |
本研究では、里山の代表的な樹種であるコナラを対象として、光合成における窒素利用特性の、窒素飽和の進行に対する応答を明らかにし、樹木生理生態学の視点から窒素飽和の指標を提供することを目的としている。初年度は葉の光合成や成長に関する特性に注目していたが、一般に富栄養な環境では貧栄養な環境に比べて葉の食害抵抗性が低くなることを踏まえて、今年度は、まず初年度に採取したサンプルを用いて、食害抵抗に関わる防御物質であるフェノール化合物と縮合型タンニンの濃度を調査した。その結果、東京都八王子市(窒素飽和)に生育するコナラでは埼玉県秩父市(窒素欠乏)に生育するコナラに比べて、葉の防御物質の濃度が低いことが明らかになった。さらに、今年度の野外調査では調査地点を4か所増やし(合計6か所)、初年度に認められた傾向の再現性を確認するとともに、葉の防御特性として、物理的強度および細胞壁量の測定も行った。それに加え一次代謝産物(糖やタンパク質)を測定した。さらに、葉の食害程度の評価も行った。今年度もコナラ成木の樹冠全体としての傾向を明らかにするため、サンプルは樹冠内の異なる高度5地点から採取した。調査対象としたいずれの森林においても、コナラの樹冠上部から下部にかけて、葉の細胞壁量濃度は増加し、フェノール化合物や縮合型タンニンの濃度は減少するという鉛直分布を示した。一方、葉内におけるこれらの物質の濃度自体は調査地点間で異なり、富栄養な環境に比べて貧栄養な環境に生育するコナラにおいて、食害率は低く、葉内の一次および二次代謝産物の濃度は高いことが明らかになった。 初年度行ったコナラ苗の窒素利用効率に対する窒素とリンの土壌への添加実験については、原著論文としてまとめ、国際学術誌に掲載された。また上記の野外調査の成果についても、国際学会・国内学会で発表し、高い評価を得るとともに、原著論文の執筆を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は予定していた野外調査をすべて実施することができたが、当初の予定になかった葉の食害に対する防御物質の測定を行なったため、測定が完了した項目は予定していた測定の8割程度にとどまった。しかしながら、葉の食害に対する化学的防御や物理的防御特性に関わる測定や葉の食害程度の評価を行うことによって、森林の窒素飽和の評価における重要な知見を得ることができたのは大きな進展と言える。成果の公表に関しては、初年度の実験的研究に関する論文がJournal of Agricultural Meteorology誌に、コナラと同じブナ科樹種である、ブナの養分利用特性に関する論文がForests誌に掲載されるとともに、中国の南寧で開催されたIUFRO国際会議や東京都府中市で開催された大気環境学会年会において口頭発表を行い、高い評価を得た。以上より2年目の進捗状況として「研究はおおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2年目の調査において、土壌の有効性窒素濃度と葉の特性の関係が明確に表れないことがあった。これは、土壌の有効性窒素濃度が調査前後の気象状況の影響を受けたためである可能性があるため、3年目は、より長期的かつ堅牢な指標である土壌の窒素無機化速度を測定し、土壌の養分状態の指標とすることする。また、コナラ成木の樹冠内における各項目の鉛直分布に関する年変動を明らかにするために、初年度より調査を行っている。東京都八王子市と埼玉県秩父市では3年目においてもコナラの調査を実施する。これらの調査結果に基づき、森林の窒素飽和を評価する上で有用な樹木生理生態学的指標を明らかにする。2年目および3年目で得られた成果については原著論文として国際学術誌へ投稿を行うとともに国内外で学科発表を行うというように積極的に成果公開を行っていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に予定していた学会発表が新型コロナウイルスの影響で要旨公開による誌上開催となったため、そのための旅費が残った。次年度の調査旅費として使用する予定である。また、学術論文の掲載料を3月に支払う予定であったが、校正などの手続きの関係上、次年度の支払いとなった。
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