研究課題/領域番号 |
18K11665
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
山口 啓子 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 教授 (80322220)
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研究分担者 |
瀬戸 浩二 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 准教授 (60252897)
香月 興太 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 講師 (20423270)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 貧酸素 / 硫化水素 / 塩分 / ストレス / 成長停止線 / 二枚貝 |
研究実績の概要 |
H30年度はサルボウガイを一定期間環境ストレスにさらす野外実験および室内実験を行い、環境が回復し、再度成長した後に、殻体を取り出して断面を作成し、成長停止線の特徴を実体顕微鏡および走査電子顕微鏡で観察した。野外実験では、塩分変動が少なく塩分ストレスが小さく、貧酸素水塊が常時存在する中海北部の貯木場を調査地点とし、ブイを用いてパールネットに入れたサルボウガイを垂下し、表層の酸素のある水塊で馴致後に、下層の貧酸素の水塊に2日間・4日間・7日間・14日間・21日間曝露する実験区、上下を繰り返す区および対照区(常に表層)を設置し、実験を行った。室内実験では、野外実験と同様の日数条件で貧酸素・硫化水素・低塩分にそれぞれ曝露する実験区およびそれらの複合条件に曝露する実験区を設けた。 野外実験では、DOロガーと塩分ロガーを飼育水深に設置してモニタリングしたが、実験で設定した条件と異なる時期が生じていた(表層においても貧酸素状態となっていた時期があった)。それも含めて貧酸素期間とした。殻体断面に見られる黒いバンド上の成長線が、貧酸素状態にさらされた期間に対応することが示された。バンドの幅は個体差が大きく、単独では曝露期間と対応が見られなかったが、個体の成長スピードを推定した後、生長量で規格化すると、曝露期間とバンドの幅に正の相関関係が認められた。 室内実験では貧酸素状態に置かれた個体は内部発生した硫化水素にさらされることになったため、硫化水素曝露区と類似した成長停止線とバンドが形成されることが示された。 なお、野外調査の21日区は全個体が死亡、14日間区も実験に供した30個体のうち生存したのは1個体のみであり、統計的な解析はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
飼育実験で得た試料の微細構造を電子顕微鏡で観察したのち、レーザーアブレープションを併置したICP-MSでストレスライン付近の元素分析を行い、電子顕微鏡の結果と比較することが計画の中にあったが、サンプルを準備するところまでで年度が修了して、東京大学大気海洋研究所への出張を実現できなかった。(出張の予定を入れられなかったため) また、実験の計画と野外での実条件が異なって、表層でも4日間程度の貧酸素状態が発生してしまった。これは気象条件と潮汐の関係で偶発的に生じてしまったため、不可避であった。しかし、それによって、4日間の貧酸素で形成される成長停止線を明確にすることができた。計画と異なる条件にはなったが、研究での検討に活かすことになった。
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今後の研究の推進方策 |
計画に基づき、中海のコアを採取し、過去のサルボウガイの殻体を採取する。かつての中海における酸素供給の環境傾斜にそって、数地点でコア(柱状試料)の採取と分析をしてサルボウガイの殻体を得る。殻体の堆積時期を推定し、酸素供給の変化とサルボウガイ殻体の成長線の対応関係を明らかにする。また、生息密度が低いため、柱状試料において大型の貝殻を得ることが困難な可能性がある。その代替として、別調査(ドレッジ)において得られた、現在の中海の環境傾斜にそって得られたサルボウガイの試料についても断面の分析を行うことにする。 また、サルボウガイについて、低塩分の場所に現在はほとんど分布せず、試料を得られない可能性型回。そのため、塩分変動の影響を見ることが難しいことが考えられるので、塩分環境の違いについてはヤマトシジミを用いることを検討する。 また、貧酸素期間と停止線の幅を対応させるためには、個体ごとの成長量を明らかにすることが必要となることが新たにわかった。成長を読み取る方法の検討も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
レーザーアブレープションとICP-MSを併用した微量元素の分析について、H30年度は全く手を付けることができなかった。そのための東京大学大気海洋研究所への出張も行うことができなかった。これらについては次年度に行う計画である。
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