研究課題/領域番号 |
18K11668
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研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
兼田 淳史 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (70304649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | モニタリング / 海況情報 / リアルタイム / 環境指標 |
研究実績の概要 |
本研究は、若狭湾およびその沖合の対馬暖流域を研究対象海域として、「シミュレーションや観測技術を使った海洋予報の「読み方」の開発」と、「音響散乱強度を利用した「海洋環境指標」の開発」を行う。研究の初年度にあたる本年度は、上記のテーマに対して、それぞれ以下の研究を行った。 一つ目のテーマである「シミュレーションや観測技術を使った海洋予報の「読み方」の開発」では、一次的に強流が発生することで知られている鷹巣(福井市)沖の定置網漁場で、流れ、水温、波の情報を提供できるリアルタイム海洋観測ブイを新たに設置し、IoT技術を利用した海況情報の供給とその有効利用に向けた研究を開始した。データは専用webサイトを経由して一般に公開し、漁業者などのユーザは公開されたデータをスマホやパソコンなどで閲覧することで、台風時の漁場の海況変化や、一時的な強流の発生をリアルタムで把握できる体制を構築した。このブイは定置網の操業期間である11月頃までを稼働期間したが、後半にはリアルタイムブイを稼働させるためのエネルギーマネジメントについて研究した。リアルタイムブイはソーラーパネルによって発電されたエネルギーを用いて稼働しているが、秋になると日照時間の短縮と北陸地方特有の悪天候のため発電量が落ちるため、ブイが地上と通信する時間帯に制限を設けることにより、少ないエネルギーでもブイを利用できるような設定を見いだした。 二つ目のテーマである「音響散乱強度を利用した「海洋環境指標」の開発」では、海底に係留した超音波ドップラー流向流速計(ADCP)や調査船が備えているADCPが取得した音響散乱強度データを分析し、その季節変化などについて詳しく分析した。その季節変化の特徴を明らかにし、海水の水中懸濁物量の変化を示す環境指標となる可能性について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
流れや水温、波の情報を配信できるリアルタイムブイおよびデータ配信システムを新たに構築し、安定運用を行うことができた。そのデータは地域の水産業で利用され始め、効果的な利用方法の開発に関する研究を順調に進めた。配信しているリアルタイムブイのデータは定置網漁の出漁の可否を判断する指標として利用され、現場で用いてきた経験的な判断に加えて、データに基づく客観的な判断が可能になってきている。また、当海域でのリアルタイムブイの設置は初めてであったが、機器の日常の掃除や異常の有無のチェックなどモニタリング体制の運用における地域との綿密な協力関係を構築できたことも大きな成果といえる。 一方で、超音波ドップラー流向流速計(ADCP)の音響散乱強度のデータ解析も、おおむね順調に進んでいる。音響散乱強度のデータはプランクトンなどの水中懸濁物量の指標になることを期待しており、過去に定置網漁場で取得したADCPデータの分析に加え、調査船が搭載しているADCPデータの分析も行った。これらの音響散乱強度のデータ解析を通じて、若狭湾およびその沖合海域における音響散乱強度の時間変化や場所による違いが次第に明らかになりつつある。 また、本研究を通じて得られた新たな知見は国内および国際会議において、速やかに発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
リアルタイム海洋観測ブイの導入および運営体制の構築ができたので、今までの知見を生かして2年目にあたる次年度も引き続き海洋観測ブイを用いた観測を実施する。2年目は定置網操業期間の初期にあたる5月から操業期間を終える11月頃まで海洋観測ブイを設置する予定で、初年度よりも長期間の運営となるが地域の方々と協力して安定運用に向けた研究を推進する。また、定置網漁場で行う係留観測では、リアルタイム海洋観測ブイだけでなく、クロロフィル・濁度計、水温・塩分計や多層流速計も設置し、これらの多項目のデータを組み合わせた分析することにより、漁場の新たな環境指標の開発を進める。 また、ADCPの音響散乱強度データを利用した海洋環境指標の開発では、音響散乱強度データと周辺で取得されたプランクトンや漁獲量のデータと比較することにより、音響散乱強度との関連性について分析を進める。一方で、見いだした海洋環境指標を公開する手法についても検討を進め、一般公開にむけた研究についても平行して推進する。 本研究は水産分野におけるIoT技術の導入に関わる新たな知見を含むため、その成果を一般の方に広く理解して頂くために、2019年8月に実施される福井県立大学の公開講座や、9月に行われる水産学会のシンポジウムにおいて研究成果の一部を紹介を行う予定である。多くの方々から意見を頂き、今後の研究推進に役立てたいと考えている。
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備考 |
鷹巣の定置網漁場の海況情報は、定置網の操業時期(5~10月頃)のみ運営している。なお、過去に取得したデータはいつでも閲覧できるにwebサイトは構築されている。
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