人間の可聴域上限を超える高周波成分が豊富に含まれかつ複雑なゆらぎ構造を持つハイパーソニック・サウンドが、人間の間脳・中脳を含む基幹脳および前頭前野等の領域脳血流の増大、免疫活性の増強、ストレスホルモンの低下、認知能力の向上などの様々なポジティブな効果(ハイパーソニック・エフェクトという)をもたらすことを研究代表者らのグループは見出した。 本研究の目的は、社会実装実験によってハイパーソニック・エフェクトの効果を検討することである。最終年度の本年度は、現実の労働空間に初年度から検討してきたハイパーソニック・音響システムと呈示方法によって環境音を呈示し、一つはオフィスワークの方々を対象に、もう一つは工場で働く方々を対象に生理的な変化を計測した。 オフィスでは、音呈示なしの環境、高周波成分が豊富に含まれた自然環境音、高周波成分は含まれない自然環境音の、3種の音環境での脳波変動の違いを計測し、その結果、高周波成分が豊富に含まれた自然環境音で、基幹脳の脳血流増加と相関する脳波α2(10Hz ~13Hz)パワーが、音呈示なしの環境および高周波成分が含まれない自然環境音に比べて増加し、オフィスワーカーの基幹脳の活性化を促した可能性が見出された。 また、工場では、上記と同じように3種の音環境下で、就労前後に唾液アミラーゼを計測し、その結果、高周波成分が豊富に含まれた自然環境音で、他の音環境条件と比べて、唾液アミラーゼの増加が就労後に就労前にたいして抑制された。唾液アミラーゼはストレスがかかると増加するため、ハイパーソニック・サウンドが、工場ワーカーのストレスを緩和することが見出された。 これら社会実装実験により、ハイパーソニック・サウンドによる労働環境の音環境改善が、働く人々の脳活性にポジティブな効果や労働者のストレス抑止をもたらす可能性が示唆された。
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