研究課題/領域番号 |
18K11674
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研究機関 | 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター |
研究代表者 |
佐藤 啓市 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 情報管理部, 総括研究員 (00391110)
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研究分担者 |
高橋 司 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 大気圏研究部, 客員研究員 (60782688)
霍 銘群 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 大気圏研究部, 主任研究員 (10633711)
箕浦 宏明 一般財団法人日本環境衛生センターアジア大気汚染研究センター, 大気圏研究部, 部長 (60394483)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PM2.5 / 有機エアロゾル / レセプターモデル / 越境大気汚染 / バイオマス燃焼 / 二次生成粒子 |
研究実績の概要 |
新潟巻国設酸性雨測定局においてPM2.5の24時間サンプリングを、2018~2020年の春季(5月)、夏季(7月~8月)、秋季(10月~11月)、 冬季(1月~2月)にそれぞれ約3週間行った。捕集したPM2.5試料は、イオン、微量金属元素、炭素成分に加えて有機指標物質の測定を行った。 PM2.5の日平均濃度の範囲は0.9~40.3 μgm-3であり、2018年夏季の1日間は日平均値の大気環境基準を上回っていた。PM2.5成分測定から、バイオマス燃焼起源とされる有機指標物質の大気中濃度は、冬季及び秋季に高く、特にレボグルコサンが最も高濃度を示した。秋季に高濃度が見られた理由として、近傍の野焼きによる活動の影響が挙げられる。冬季の高濃度に関しては、後方流跡線解析と森林火災発生地点の分布結果から、中国東北部での森林火災、日常生活での石炭、農業廃棄物の燃焼によってバイオマス燃焼由来のPM2.5が排出され、冬季の季節風によって新潟に飛来したと考察された。 その他の有機指標物質についても、季節変動と変動要因の考察を行った。植物活動起源の有機指標物質では夏季にテルペン類の1つである、イソプレンに由来する2-methylerythritolが高濃度を示し、植物活動が盛んになる時期と同期していた。光化学反応の有機指標物質では、日中時間が長く光化学反応が促進される夏季と春季にマロン酸等のジカルボン酸類が高濃度を示した。調理起源の有機指標物質であるCholesterolは、通年検出されたが、特に夏季で濃度が高く示された。これらの有機指標物質で高濃度が見られた春季、夏季において遠方からの大気の移流があまり見られなかったため、国内で発生したPM2.5の影響が大きいと考察された。2年間の成分分析データから、PM2.5成分の季節変動と変動要因の関係について明らかにすることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新潟巻でのPM2.5試料のサンプリングは支障無く実施し、2年間で178検体の日毎捕集試料を得ることが出来た。この試料数はレセプターモデル解析に必要なデータ数(160)を十分満たしている。PM2.5試料の分析については、イオン成分、微量金属元素、元素状炭素(EC)、有機炭素(OC)の分析を実施し、取りまとめたデータから季節変動の特徴を明らかにした。また、本研究で得られた観測データを用いて、新潟および日本海側遠隔測定局で観測されたPM2.5のフィルター重量測定法と自動測定機との等価性評価を行った。どの季節についても両者の測定値は一致性を満たしており、PM2.5濃度データの信頼性を示すことが出来た。これらの結果を、第60回大気環境学会年会で発表した。 有機指標物質については、昨年度に試料前処理、分離カラムの選択、カラム昇温速度、インターフェース温度等の分析条件の最適化を行い、確立した条件で日毎捕集試料の分析を行った。季節別の濃度平均値のデータから、季節変動と変動要因の関係について明らかにすることが出来た。一部のデータでは、濃度変動が不連続であったため、季節平均の評価から除外した。これらは、試料前処理時に共存物質の影響や、誘導体化反応が進まなかった可能性が考えられ、再分析する必要があると考えられる。 このように、PM2.5試料捕集および成分分析は、研究計画に記載した事項に従って、概ね順調に実施しており、今後レセプターモデルを用いたPM2.5発生源解析を行うために十分な質と量のデータを取得している。
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今後の研究の推進方策 |
一部の有機指標物質のデータでは、前後のデータと比較して濃度変動が不連続であった。特に試料中に水分が存在していると加水分解が起こり、誘導体化反応が進まなくなる。この点に留意して、異常値を示しているデータについては有機指標物質の再分析を行う。 2020年初頭より新型コロナウィルスの影響により、中国をはじめとする北東アジア地域での経済活動の停滞とそれに伴う大気汚染物質排出量の劇的な減少が報告されている。この排出抑制によるPM2.5発生源寄与に与える影響を検証するために、2020年も新潟においてPM2.5試料捕集および成分分析を可能な限り行う。 取得したPM2.5成分データについて、代表的なレセプターモデルである正値行列因子分解(PMF)モデルにより、発生源因子の同定と各因子のPM2.5寄与濃度を算出する。解析データ中に異常値が混じると発生源同定に困難をきたすので、データスクリーニングにパスしたデータのみを解析対象とする。スクリーニング方法は、PM2.5成分濃度をマスクロージャーモデルに適用することにより推定された質量濃度とPM2.5重量濃度の相関を調べ、大きく外れたデータを解析対象から省く方法で行う。PMF解析により、特に燃焼などによって直接排出される一次生成粒子と大気中での化学反応により生成される二次生成粒子の寄与率を推計する。 更に、PMFモデルによって抽出された発生源セクターをPotential Source Contribution Function(PSCF)に適用する。各測定地点を受容ポイントとした後方流跡線の頻度とPMFで計算した発生源寄与濃度の積により測定地点に影響を与える発生源因子の強度分布を求める。発生源寄与が強い地域を図示化することにより、観測されたPM2.5が日本国内のローカル汚染と北東アジア大陸からの長距離越境汚染のどちらに支配されているのかを結論付ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
PM2.5試料分析用試薬、ろ過フィルターの必要数が当初の見積もりよりも少なかったので物品費の区分で余剰額が生じた。 次年度は余剰額はPM2.5分析に使用する試薬、PM2.5補集フィルターの購入に充てることにより、物品費は540000円、旅費は138000円、その他は142000円使用する予定である。
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