研究課題/領域番号 |
18K11680
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 祥広 宮崎大学, 工学部, 教授 (90264366)
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研究分担者 |
真砂 佳史 国際連合大学サステイナビリティ高等研究所, サステイナビリティ高等研究, その他 (50507895)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 泡沫濃縮法 / 都市河川 / 菌叢解析 / 病原性細菌属 / 一斉検出 |
研究実績の概要 |
【研究概要】河川には,多種多様な細菌が存在している。また,各種の産業活動による排水が一部未処理のまま流入しているため,その中には病原性を有する細菌も存在する。この水環境中に存在する病原性細菌による水系感染症は,世界中で問題となっている。世界的に水質保全技術や管理が進んでいる我が国においても,病原性細菌による水系感染症の報告がある。したがって,水環境中の病原性細菌の存在実態を把握することは極めて重要である。ここで,水環境から病原性細菌を検出する際に最大の障害となっているのは,不特定の細菌が水中に極低濃度で混在する点であるそこで,河川水試料から細菌のDNAを効率的に濃縮・回収する手法・技術が必要となる。しかしながら,既存の濃縮法であるフィルターや膜を用いた方法は,ろ過閉塞による物理的制限が生じる。そこで本研究では,フィルターやろ材を必要としない泡沫濃縮法に着目し,河川水から細菌の濃縮・回収を検討した。その後,DNA抽出を行い,抽出液の濃度を測定した。また,病原性細菌を検出する手法として注目されている次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer,NGS)を用いた菌叢解析によって,河川水中からの病原性細菌の網羅的検出を試みた。 【研究成果】河川水試料から菌叢解析に必要な十分量のDNAを回収することが可能となった。東京等やその他の都市を流下する6の実河川を調査したところ,我が国の河川には,病原性細菌属のAcinetobacterとComamonasが広く分布することがわかった。以上の結果から,泡沫濃縮と次世代シーケンサーを用いた菌叢解析を組み合わせることによって,河川から病原性と疑われる細菌属の一斉検出が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【当初の実施計画とその進捗状況】 ①細菌濃縮・回収法の開発[代表者・鈴木,H30-31]:界面活性タンパク質を用いて,細菌の鉄凝集フロック(塊)が気泡の気液界面に付着・吸着する機能を高め,工学的手法によって泡沫に濃縮する方法を開発する。具体的には,病原微生物汚染水にタンパク質を添加し,分散気泡を送気供給して水面上に発生する安定泡沫に超高濃度で細菌を分離・回収する。その泡沫濃縮液から高効率にDNAを抽出し,標的とする病原細菌の遺伝子を濃厚に含むDNA濃縮原液を得る。目標設定値:原水10 Lに含まれる細菌DNAを100μLにする(10万倍濃縮)。進捗状況:計画通りに遂行し,5万倍の細菌DNA濃縮法を確立した。スケールアップは確認済。 ②100以上の標的遺伝子の一斉検出法[プライマー設定:分担者・真砂,H30-31;一斉検出:鈴木,H31-32]:WHOの飲用水質ガイドラインの病原細菌リストや感染症研究所の病原微生物検出情報ウェブサイトから候補となる病原細菌を選定する。さらに,文献検索システムのデータベースから,選定された病原細菌の標的遺伝子を検索し,PCRで増幅するためのプライマーを設定する。進捗状況:水系感染症で最重要な5種の病原大腸菌をリストアップし,独自のプライマーを設計した。 ③実河川における実証[鈴木・真砂,H32]:都市河川,畜産排水の流入する河川,および下水道未整備地区の河川を対象として,河川水からDNAを超高濃度に濃縮して,病原細菌に関連する標的遺伝子を一斉検出する。進捗状況:実河川において,病原性細菌属を網羅的に検出した。 以上のことから,本研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
我々が開発した大容量の水試料からの高効率な病原細菌濃縮技術(泡沫分離法)と近年開発が進む次世代シーケンシング技術を組み合わせることによって,①水試料中から全ての細菌を超高濃度に濃縮し,②病原関連遺伝子を一斉検出する手法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初,計画していた調査旅費を精査することによって大幅に削減できた。次年度の消耗品費に合わせて,遺伝子抽出キット,薬剤耐性試験試薬で使用する計画である。
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