研究実績の概要 |
中分子量範囲(分子量:600~2,000)の高分子化合物の存在が環境化学物質の細胞毒性作用に与える影響について検討し、複合影響の予測手法確立のための新たな基盤形成を目指した。これまでの研究では、SH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫由来)及びCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来)を用い、様々な高分子化合物と農薬等の化学物質の共存が細胞の増殖・生存に与える影響について検討を行った。その結果、単独では細胞の増殖・生存に抑制効果を有しない濃度のポリエチレンイミン(PEI, 平均分子量: 600、1,200及び1,800)が、殺菌剤等として使用されるチウラムの細胞毒性を相殺することを明確にした。 今年度は、SH-SY5Y細胞を用い、PEI共存下でのパラコート(除草剤)の細胞毒性について再評価を行った。昨年度の検討では、添加後2日間の培養にて影響を評価したところ、共存による明確な効果は認められなかったが、3日間培養においてはPEIがパラコートによる細胞毒性作用を増強することが判明した。この共存による増強効果はチウラムとは逆の複合影響であり、今後その作用機序について解析を進める。 一方で、Caco-2細胞透過性試験を行い、細胞毒性を示さない濃度でのPEI添加の影響を評価したところ、添加後5時間までに顕著な細胞膜抵抗値の低下やLucifer Yellow CHの細胞単層膜底面への移行は見られなかった。本結果から、PEIは、少なくとも細胞毒性を示さない濃度では、細胞間結合のひとつであるタイトジャンクションに作用して細胞接着を緩め、共存する化学物質の体内への吸収を促進する作用は認められないことが示唆された。
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