研究実績の概要 |
環境中には多様な化学物質が混合物として存在しているが、高分子化合物と環境化学物質の複合影響について検討した研究報告例はこれまでほとんどない。本研究では、高分子化合物共存下における環境化学物質の細胞毒性等への影響について検討することにより、新たな複合影響の予測手法確立のための基盤を形成することを目指した。 高分子化合物としては水に対する溶解性等を考慮し、特に中分子量範囲(MW 600~2,000)のものを対象とした。使用量が多くかつ荷電状態の異なる4種類の高分子化合物を選択し、SH-SY5Y細胞(ヒト神経芽細胞腫由来)及びCaco-2細胞(ヒト結腸癌由来)の増殖・生存に与える影響を、高分子化合物単独あるいは十数種類の環境化学物質との共存下にて、比較検討を行った。その結果、高分子化合物単独では、陽イオン性の高分子化合物であるポリエチレンイミン (PEI) が両細胞において最も強く細胞増殖・生存を抑制し、陰イオン性や中性の高分子化合物は1mg/mL未満の濃度ではほとんど影響を与えないことが判明した。これに対し、PEIは、単独では細胞増殖・生存について抑制効果を示さない濃度でも、チウラム等のジチオカルバメート系化合物の共存下において細胞毒性を相殺することが示された。一方、PEIとパラコート(除草剤)の共存下で細胞毒性について評価したところ、3日間培養において、PEIがパラコートによる細胞毒性作用を増強することを明らかにした。 最終年度である令和5年度は、以上の実験結果を検証し、論文化を進めるとともに、近年の国際的な複合影響の評価手法確立における研究の動向をまとめた。結論として、構造類似物質や同一メカニズムの物質群以外の組み合わせにおける複合影響の評価には多様な因子が関与しているため、個別検討のデータの蓄積が重要であることが確認された。
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