研究課題/領域番号 |
18K11686
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研究機関 | 地方独立行政法人北海道立総合研究機構 |
研究代表者 |
姉崎 克典 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 環境・地質研究本部 環境科学研究センター, 研究主任 (20442634)
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研究分担者 |
中野 武 大阪大学, 環境安全研究管理センター, 招へい教授 (00446791)
武内 伸治 北海道立衛生研究所, その他部局等, 主査 (20414287)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | PCB / 室内環境 / パッシブサンプリング / レポータージーンアッセイ / 毛糸 |
研究実績の概要 |
作業環境大気におけるポリ塩化ビフェニル(PCBs)とパッシブサンプリングの捕集材としての毛糸との間の吸着捕集における捕集段階として、捕集材への吸着量が時間経過に比例して増加する段階(いわゆる第一段階)での捕集効率の検討を前年度に引き続き実施した。PCB使用機器解体エリアなどで捕集材を10~30分設置して試料を採取した。捕集材に対しアセトンによる超音波抽出を行い、多層カラムクロマトグラムで処理し機器分析を実施した。ただし、絶縁油使用機器の解体現場での採取においては、油分の影響が強く示唆されたことから、前処理にSupelclean sulfoxide SPEにより油分除去を実施した。実地試験におけるPCBsの捕集材への吸着速度から算出される吸着係数Ku’は、概ね0.003(m3/分)であったが、極めて高濃度(10,000 ng/m3)における条件下では10分の採取時間でも捕集材が破過し、捕集における第二又は第三段階に到達しているものと推測された。 アッセイの検討は、室内環境試料の収集しアッセイ用への調整を進めると共に、光重合開始剤10物質について各種アッセイへの適用性を検討した。エストロゲン受容体 (ER)α、ERβ及びアンドロゲン受容体 (AR) を介した試験物質の作用を、ホルモン受容体及びレポータープラスミドを一過性に導入したチャイニーズハムスター卵巣細胞を用いたレポータージーンアッセイ法により測定した。ホルモン受容体活性は5物質に作用が認められた。ERα及びERβアゴニスト活性が5物質に認められた。一方、ARアゴニスト活性はいずれの化合物にも認められなかったが、アンタゴニスト活性が2-Methyl-4'-(methylthio)-2-morpholinopropiophenoneのみに認められた。なお、この物質には、ERα及びERβアゴニスト活性も認められた。すなわち、様々な光重合開始剤がホルモン受容体活性を有し、中にはエストロゲン活性と抗アンドロゲン活性を併せ持つ化合物も存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度から引き続き検討してきた「毛糸を用いたPCBパッシブサンプリング法における各異性体別の吸着・脱離速度の検討」については、PCB使用機器の解体現場などの作業環境測定を毎月実施、分析できており、ほぼ計画通りに進めることができた。また、年度の後半には居住環境といった作業環境に比べ濃度が1オーダー低い室内環境における検討(サンプリング)も開始した。分析及び解析は最終年度に実施する予定である。 迅速な分析手法については初年度に確立していたが、絶縁油機器解体現場の一部においては油分のきわめて多い環境も散見され、クリーンアップが不十分となりケースが散見されたことから、スルホキシドカラム+銀イオンカートリッジカラムを活用したクリーンアップ法を活用・検討し、十分な精製効率が得られることを確認した。 作業環境試料のアッセイ法への適用については前年度に引き続きサンプルの収集と前処理を実施したが、DR-EcoScreen細胞等を用いたレポータージーンアッセイ法に適用については、最終年度に持ち越すこととした。また、関連研究として光重合開始剤のアッセイへの適用性を検討した。 この他に、他のパッシブサンプリング法との比較や温度、濃度との関係についての検討も進行中であり、順調に研究が進んでいると考える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、JESCO室蘭において、作業環境試料の採取及び分析を継続し、アクティブサンプリング法との比較を行う。また、作業環境だけでなく、比較的低濃度の室内環境(PCB使用機器保管場所、PCB含有シーリング材が使用されている室内など)における本手法の妥当性についても検討する。異性体毎のsampling rateについてのデータ整理(温度、濃度、風速との関係) や大気吸着モデルの検証と吸着剤の性能評価を行う。そして毛糸で採取した実サンプルについてホルモン受容体活性を検討する。また、PCBだけでなく過年度に検討した精油成分と同様に、短鎖塩素化パラフィンといった空気試料に含まれる可能性のある新規の化学物質(POPs)についても複数のホルモン受容体のアッセイを行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費については、購入予定だったスタンダードや採取機材やGC/MS関連の消耗品類について、別予算での導入が可能であったこと。旅費については、当初予定していた経費よりも安価に出張・出席できたこと、そして年度末に予定していた学会参加がコロナ関連の影響により中止となったこと。その他経費については、学会参加費が当初見積もりより安価であったり、学会が中止となったりしたことに加え、本研究課題の研究者による筆頭での論文投稿ができなかったことに伴い、英文校閲が行わなかったこと。これらの事由により当初予定額を下回る使用額となったものである。 なお、この繰越金については次年度において物品費とその他経費に振り分け、消耗品の追加購入を行う他、アッセイ法の検討においてPCB以外の物質にも対象を拡大させるためのスタンダードの購入に活用する。なお、次年度はコロナの影響により学会等への参加が困難となることが予想されることから、旅費相当分に関しては一部余剰となる恐れがあるが、物品費や論文投稿における校閲などでの使用を想定する。
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