研究課題/領域番号 |
18K11689
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
黄 仁姫 北海道大学, 工学研究院, 助教 (70447077)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ごみ焼却排ガス処理 / 竪型ストーカ式炉 / 窒素酸化物 / アンモニア / シアン化水素 |
研究実績の概要 |
本研究は,ごみ層の鉛直方向に酸素濃度の異なる反応ゾーンを形成し,効率よく焼却を行っている竪型ストーカ式焼却炉に着目し,還元剤や触媒を使わずに排ガス中窒素酸化物の濃度を低減可能な運転条件とそのメカニズムを明らかにすることを目的とする。 ごみ層から発生した熱分解ガス(窒素,酸素,二酸化炭素,一酸化炭素,水素,炭化水素類)と中間生成物の濃度データを用い,燃焼室から再燃焼室までの窒素酸化物の生成ポテンシャルを調べた。計算には,熱力学と化学動力学データベースを用い,気相化学反応を解析できるCHEMKEDを使用した。解析に必要な化学種と素反応式は,公開ソースであるGRI-Mech の化学種53種,素反応325式を利用した。 中間生成物の一つであるシアン化水素(HCN)は,過剰量の酸素が存在しても800℃以下ではほとんど酸化されない。900℃では窒素ガス:窒素酸化物=1:1の比率に変換し,生成した窒素酸化物は主に亜酸化窒素(N2O)であった。1000℃以上では一酸化窒素(NO)の割合が大きくなり,酸素濃度の増加につれてその濃度も増加した。もう一つの中間生成物であるアンモニア(NH3)は,同様の条件下で窒素酸化物への酸化や窒素ガスへの還元は起らなかった。しかし,上記の中間生成物単独での燃焼反応とは異なりガス中に一酸化炭素,水素,メタン等の可燃ガスが共存すると,一酸化窒素(NO)の生成が促進されることがわかった。その一方で可燃ガス濃度より酸素濃度が低く維持されると,アンモニアは分解せずそのまま残存したため,再燃焼室にて窒素酸化物の還元剤としての利用可能性も示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究では,竪型ストーカ式焼却炉のごみ層内に鉛直方向に形成される各反応ゾーンでのガス濃度を調査した。最上部の熱分解ゾーンでは、ガス中に一酸化炭素,水素,炭化水素等が10~20vol%存在し,強力な還元雰囲気の中で窒素化合物の酸化反応が抑制され,中間生成物であるシアン化水素とアンモニアが生成されることを確認した。本年度は,ガス濃度の実測値や文献値,気相化学反応の解析プログラムであるCHEMKEDを用い,燃焼室から再燃焼室までの温度,酸素濃度を模擬し,窒素酸化物の生成濃度を予測した。シアン化水素とアンモニアは,温度や酸素濃度に対し,互いに異なる反応特性を示した。しかし,可燃ガスが共存すると,類似した反応特性を示し,一酸化窒素の生成に大きな影響を及ぼすことがわかった。特に主な中間生成物であるアンモニアは,可燃ガスと酸素濃度のバランスによって一酸化窒素への酸化反応が進む,またはそのまま残存し,窒素酸化物の還元剤として利用できるようになる可能性も示唆された。この点に着目し,次年度は室内実験を行い,炉内で窒素酸化物の濃度低減を実現できる反応条件を詳しく調べる。
|
今後の研究の推進方策 |
数値計算シミュレーションに加えて室内実験を行い,ごみ層から発生した主な中間生成物であるアンモニアの再燃焼室での酸化・還元メカニズムを明らかにする。竪型ストーカ式焼却炉での反応条件を模擬し,アンモニアを含む混合ガスと窒素酸化物の標準ガス(一酸化窒素および二酸化窒素)を用いて実験を行う。ガス濃度,温度等を主な運転条件として,窒素酸化物の生成または窒素ガスへの還元条件を明らかにする。生成ガスは反応器出口で窒素酸化物の連続分析計を用い,窒素酸化物の定性・定量を行う。以上の調査および実験から得られた結果を総合的に検討・解析し,炉内で窒素酸化物の濃度低減を実現できる反応条件を明らかにする。また,これらの反応条件と窒素酸化物との関係を定量的に示し,竪型ストーカ式焼却炉を含む従来の焼却炉にも適用可能なごみ燃焼制御方式の具体的な案を示す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
データ整理の目的で学生謝金を計上していたが、シミュレーションやデータ整理作業を研究代表者自身で行ったため、人件費・謝金の支出がなかった。次年度に実施予定の室内実験用の標準ガス等の物品費として使用する。
|