研究課題/領域番号 |
18K11692
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
荷方 稔之 宇都宮大学, 工学部, 助教 (30272222)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ビスフェノールA / ビスフェノールA資化性細菌 / PCR-DGGE |
研究実績の概要 |
難分解性化学物質による土壌汚染に対する生物学的浄化技術の開発は急務である。生物学的浄化には対象物質を分解・資化可能な細菌を分離する必要がある。そこで本研究では、汚染物質分解細菌が持つ「浄化能力」と、汚染物質に対して細菌自らが「走化性」により集積応答する能力を合わせ持つ、「汚染物質分解走性細菌」を現場の土壌から効率的に分離する技術を確立し、高効率な汚染土壌の新規浄化技術の構築を目指している。平成30年度は、難分解性物質のモデルとしてビスフェノールA(以下BPA)を用い、磁気を用いて固液分離を行う磁化活性汚泥法による効率的な汚泥の馴養とBPA資化性細菌の分離を行った。 BPAを主な炭素源とする人工排水を用いて活性汚泥の馴養を行い、運転20日目以降に安定し、90%以上のBPA分解率を60日間維持した。これは汚泥内にBPAを代謝する細菌が増殖、濃縮され、曝気槽内に維持されたためと考えられた。 そこで16S rRNA遺伝子をターゲットとしたPCR-変性剤濃度勾配電気泳動(PCR-DGGE)法を用いて汚泥内の細菌叢を解析したところ、培養開始15日まで検出される細菌種の数が減少し、46日以降は小数の検出DNAの強度が馴養とともに増加した。これは培養初期にBPAを資化できない細菌が徐々に減少した後、BPAを分解する細菌が優占化したと考えられた。 馴養に用いた人工排水の寒天培地に希釈したBPA馴養汚泥を塗布し、増殖したコロニーから6株の細菌を分離した。それらは既に報告例のあるSphingomonas bisphenolicumなども含まれていたが、未だ報告例のない細菌種も3株分離された。 以上より、BPAをモデル汚染物質として磁化活性汚泥を馴養することに成功し、さらにその汚泥からBPA資化性細菌を分離することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度における本研究課題の目的は、①モデル汚染物質であるビスフェノールA(以下BPA)を用いて活性汚泥を馴養し、②BPAを分解し、さらに③BPAに対して集積応答を示すBPA資化性走性細菌を分離することを目的とした。このうち①については、磁化活性汚泥を用いた馴養を行い20日ほどの運転でBPAを90%以上分解する汚泥の馴養に成功した。さらに②についても馴養汚泥からBPAを主な炭素源とする人工排水寒天培地で増殖し、コロニーを形成する細菌を6株単離することに成功した。平成30年度は、②BPA資化性細菌の分離、まで達成することができたが、これらの③BPA資化性細菌のBPAに対する走性については検証していないため、BPA走性の有無について走化性を測定し、検証する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に単離することに成功したBPA資化性細菌について、BPAに対する走性を測定、定量化することを第一に行い、本研究課題の重要な達成項目の一つである、BPA資化性走性細菌の単離を行う。もし分離した6株にBPA走性が認められた場合は、研究計画通り、①BPA分解走性細菌の汚染物質に対する走性応答の濃度依存性、②多種類の類似物質に対する走性特性、③走性応答を示す至適培養条件についての検討を行い、さらにBPA走性に関与する走化性センサータンパク質をコードする遺伝子の同定も含めて、BPA走性のより詳細な分子レベルでの解析を行う。もし分離したBPA分解細菌にBPA走性が認められなかった場合は、①BPA馴養汚泥を用いてより多くのBPA分解細菌を分離後、BPA走性細菌をスクリーニングする、または②先にBPA走性細菌を分離し、その中からBPA分解細菌をスクリーニングすることにより、平成31年度の研究課題を遂行する。 さらに本研究課題で採用した汚泥の馴養法である磁化活性汚泥によるBPAの馴養についても、より高効率な馴養条件を検討する。馴養後の磁化活性汚泥内では優占化した細菌の消長が確認され、多種類のBPA資化性細菌の存在が示唆された。今後は標準活性汚泥法との馴養効率の比較について検討することにより、磁化活性汚泥法を用いた新規難分解性物質資化性細菌の濃縮ユニットとしての可能性を実証していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、ビスフェノールA分解細菌の分離には成功したが、これらの分離細菌のビスフェノールAに対する走性の有無については平成30年度内での測定には至らなかった。本研究ではビスフェノールAを分解だけでなくビスフェノールA走性を示す細菌の単離が必要不可欠であるため、次年度に走化性測定を検討する予定である。そのため次年度使用額(26,418円)は、分離したビスフェノールA分解細菌の走化性測定に用いるガラスキャピラリーなどの消耗品や試薬類に当てることとし、翌年度分と合わせて使用する。
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