研究課題/領域番号 |
18K11693
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
秦野 賢一 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (20282410)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ファイトレメデーション / 植物除塩 / 塩害 / 抗酸化活性 / 食品廃棄物 / 廃糖蜜 / 活性酸素 / 耐塩性植物 |
研究実績の概要 |
本学プロジェクト棟の屋上の簡易グリーンハウスで,キカラシナ(園芸種),農林20号アブラナ(園芸種),セイヨウアブラナ(野生種)のアブラナ属を,メラノイジン類似生成物(MLP)を添加した培地で3月から5月にかけて植物除塩実験をおこなった.培地には,4倍希釈のホグランド栄養液を含む3%寒天粉砕培地を用いた.塩化ナトリウム(NaCl)濃度は,植物が塩害の症状を呈する0.3%前後の35 mMと70 mMに設定した.MLP濃度は予備実験で効果のあった濃度50, 100 g/Lに調整した.二ヶ月間の植物除塩実験の後,収穫した植物体は真空乾燥器で徹底的に乾燥させて重量を測定した.乾燥試料は熱硝酸分解をおこなった後,誘導結合プラズマ発光分光分析で組織中のNa量を定量した. また,抗酸化活性と相関があると考えられているシミそばかすの発生原因であるチロシナーゼに対する各種MLPの阻害活性を測定した.国内三社より提供の廃糖蜜由来のMLP全てからチロシナーゼ阻害活性が確認できた.そのなかでX4樹脂からメタノール100%画分に溶出してきたフジ日本精糖会社の廃糖蜜試料(X4-Fuji-Me100)は,最大のチロシナーゼ阻害活性率(37%)を示した.メタノール濃度勾配によってXAD-4樹脂カラムから溶離した同試料では,X4-Fuji-Me50 < X4-Fuji-Me75 < X4-Fuji-Me100という順の阻害活性の強さだった.このことから、MLPの中で疎水性の強い成分がチロシナーゼ阻害活性も強いことが示唆された.最も強い阻害活性を示したX4-Fuji-Me100のチロシナーゼに対するIC50値は,約140 μg/mLだった.Lineweaver-BurkとDixonプロット解析によって,混合阻害形式でチロシナーゼを阻害し,その阻害定数は83 μg/mLであった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物除塩に関しては,昨年度の予備実験であがってきた改善点を全て反映して実行でき,収穫した植物体の乾燥重量はもちろんのこと,全試料のNa濃度も測定できたことは大きな進歩と言える.植物種に関しては,現時点で利用可能なアブラナ属三種で植物除塩実験をおこなうことができた. 結果として,NaCl濃度35 mMでMLP無添加の培地で栽培した条件(Na35/MLP0)の園芸アブラナのバイオマスは,NaCl無添加の条件(Na0/MLP0)と比較して33%減少した.一方で,35 mM NaCl添加培地でMLPを50mg/Lまたは100 mg/L添加した条件(Na35/MLP50またはNa35/MLP100)ではNa0/MLP0と同等の値を示し,塩害の軽減が見られた.70 mM NaClの条件では対照実験(Na70/MLP0)の植物体が全て枯死したが,MLP濃度を50mg/Lまたは100 mg/Lに調整した条件(Na70/MLP50またはNa70/MLP100)では枯死しなかった. Na35/MLP50およびNa35/MLP100の植物体当たりのNa蓄積量は,Na35/MLP0と比較すると45%および43%それぞれ増加した.以上の結果から,NaCl添加培地での園芸アブラナ栽培において,MLP添加によって塩害から植物を守り,植物組織のNa蓄積量を増加させることが示唆された. 上記に示した園芸アブラナ以外では塩害に対する耐性が弱く,特に園芸カラシナでは塩を添加するとMLP濃度を100 mg/Lに調整した条件以外の全ての植物体が枯死することがわかった.これは,Na70/MLP100での園芸アブラナの苗条と根の平均Na濃度が2.47 mg/gと3.76 mg/gであったのに対して,園芸カラシナではそれらが4.25 mg/gと7.33 mg/gと高濃度であったことが原因と考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
今回の植物除塩実験の結果より「銅や鉛などの重金属投与による植物生長阻害の緩和が,MLPのキレートによる無毒化ではない」ことが証明された.今後は,今回示されたMLPの抗酸化活性により間接的に示唆された「重金属などの環境ストレスにより発生する活性酸素種をMLPの抗酸化活性が消去している」ことを塩性培地で栽培している植物体のスーパーオキシドディスムターゼなどの抗酸化酵素活性を測定することにより証明する予定である.今回の結果を踏まえて,栽培植物種は園芸アブラナを用いて,さらに改良した実験条件で人工気象器を併用して栽培する予定である.また培地にはNaCl添加はもちろんのこと,実際の津波でこうむる塩害を想定して人工海水を添加して栽培する予定である.そして,定量する金属種もNaのみならずカリウムやカルシウム量も同時に測定する予定である.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度に購入予定であった機器の購入を,実験の進展状況のため次年度に延期したため.
|