研究課題/領域番号 |
18K11699
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
森 一俊 帝京大学, 理工学部, 教授 (60566941)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ディーゼルエンジン / BDF / 燃焼 / DOC(酸化触媒) / DPF / ナノ粒子 / 粒子生成メカニズム / 粒子排出メカニズム |
研究実績の概要 |
燃料として,JIS2号軽油と,廃食油をベースとしてFAME(Fatty Acid Methyl Ester)化したバイオ・ディーゼル燃料(BDF:Bio-Diesel Fuel)に加え,インドネシア市場等で導入済みのパーム油ベースのBDFを用い研究を推進した。更に後処理装置のDOC(Diesel Oxidation Catalyst)とDPF(Diesel Particulate Filter)がナノ粒子排出に及ぼす影響,特にDPFの壁面上にすす(スート)が捕集・堆積されて形成されるスート層が,ナノ粒子の排出挙動に及ぼす影響を詳細に研究した。 ナノ粒子の個数や粒子径分布を,SMPS(Scanning Mobility Particule Sizer)とELPI+(Electrical Low Pressure Impactor)により計測,採取したナノ粒子をTEM(Transmission Electron Microscope)やFE-SEM(Field Emission-Scanning Electron Microscope)を用いて観察・撮影し粒子の凝集形態やナノ粒子一粒の粒径も計測・解析した。ELPI+を用いナノ粒子の排出挙動を時間毎に計測・解析する事で,DOCがナノ粒子に及ぼす影響と,スート層形成中にDPFに捕集・堆積されたナノ粒子が大気中に排出される過程を明らかにした。 その結果,廃食油およびパーム油ベースのBDFは,JIS2号軽油に比べ,排出される個数が少なく排出個数がピークを示す粒子径がJIS2号軽油に比べ小さく,一粒の粒子径も小さい事が判った。更にDPF壁面にスート層が形成されるに伴い10nmに排出個数のピークを持つナノ粒子の排出が激減すると共に,スート層形成後には,大きな径の凝集粒子の塊となって大気中に排出されるメカニズムを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
パーム油ベースのBDFが作れ,含酸素率がそれぞれ約11%の廃食油ベースのBDFとパーム油BDFのナノ粒子の個数や粒径分布がほぼ同じで,排出個数がピークとなる粒径は,JIS2号軽油が約51nmなのに,両BDFでは44nmと小さくなる事が判り,ナノ粒子径に及ぼす含酸素燃料の影響が把握出来た。そして,リノール酸とリノレン酸の二価が少ないパーム油ベースのBDFの方が,生成される小さな粒子個数比率が廃食油ベースのBDFより多い傾向がある事を把握し燃料組成が粒子生成に及ぼす可能性が把握出来た。しかも一粒の粒子径はJIS2号軽油が20.40nm,両BDFは10.20nmを示して居る事も判明した。以上が進展した一つ目の理由で有る。 ナノ粒子の捕集・堆積により,後処理装置のDPFの壁面上に形成されたスート層が薄いと排出粒子の個数が多く(特に10nmのナノ粒子),粒子径分布は二山形状を示し,スート層が厚くなるに従い小さな粒子の排出が激減(捕集・堆積しスート層形成を促進)し,個数は減少するも大きな凝集粒子の塊(70~90nm)をピークとする一山形状の粒径分布を示す,つまり大きな粒子塊のみが排出される事,そしてその粒子塊の直径は,気孔率の大きなCordielite-DPFが約75nm,気孔率が小さなSiC-DPFの方は約85nmと,気孔率とは相反する粒径の塊で排出される事が判明した。更にDOCを通過するナノ粒子の燃焼・発熱によりDPFの壁面上に形成されたスート層が壊され(燃焼し)大気中に粒子塊を排出する可能性が示唆された。これらが進展した二つ目の理由で有る。 三つ目の理由には,エンジンの燃焼に伴う粒子生成メカニズム,後処理装置による捕集・堆積・スート層形成・崩壊に伴うナノ粒子の大気中への排出メカニズムが推定出来た事により,ナノ粒子生成と排出メカニズムの解明に近付けた事が上げられる。
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今後の研究の推進方策 |
エンジンの燃焼に伴う粒子生成メカニズム,後処理装置による捕集・堆積・スート層形成・崩壊に伴うナノ粒子の大気中への排出メカニズムが推定出来,ナノ粒子生成と排出メカニズムの解明に近付けたとは言うものの,解明にはまだ遠く,JIS2号軽油やBDFの燃焼により生成されるナノ粒子一粒の直径も確定的なものでは無い。そこで下記の研究内容を推進したい。 ①DPF壁面上のスート層形成過程に於けるナノ粒子の排出挙動と個数および粒径分布は把握出来て居るが,逆にスート層が完全形成した状態から崩壊して行く(DPF再生:Regeneration)のナノ粒子の大気中への排出挙動や個数および粒径分布の調査・研究。②DOCを装着せずにDPFのみの場合に於けるスート層形成過程とDPF再生過程に於けるナノ粒子の排出挙動や個数および粒径分布の調査・研究。③後処理装置の捕集・堆積・スート層形成・崩壊に伴うナノ粒子の排出挙動や個数および粒径分布をBDFを用いて調査・研究。④エンジンの燃焼に伴うナノ粒子の生成メカニズム解明のために,エンジン回転数の影響や,回転数・負荷の変化に伴うナノ粒子生成メカニズムの調査・研究。 ⑤ナノ粒子の一粒の直径把握のために観察・撮影の高精度化および採取数・観察数・撮影画像数の増大。 ⑥排気管中に固定した鉄の棒に,ナノ粒子を付着させ,それを,TEM観察用グリッドにプリンティング(転写)して観察・撮影しているが,ナノ粒子の採取方法を,付着・転写方式から,排気管中を浮遊するナノ粒子を直接採取する方法に変更してナノ粒子を採取。 ⑦ナノ粒子の組成分析のための採取条件(特に時間等)を変更しつつ組成(EC/OC:Elementary Carbon/Organic Carbon)分析の高精度化。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金のお陰で,必要な物品(パーム油,フィルタやTEM観察用グリッドおよび較正ガス代など)が購入出来,ナノ粒子個数や粒径分布計測用機器のレンタル費用が確保出来て,順当に研究が推進,内容も充実し成果にも繋がったが,海外に於ける国際会議での研究成果発表が間に合わずに次年度使用額が残ってしまった。かつ研究成果の国内学会での論文発表時も,大学から頂戴している研究旅費を使用したため,助成金の次年度使用額が大きくなった。次年度(2020年度)は国際会議での成果発表や聴講を志向していたが,COVID-19の影響でそれらが軒並み1年延期になり,本研究の最終年度を越えてしまう。研究内容や研究の推進方法も含め,対応策を検討し当該助成金を活用する。
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