研究課題/領域番号 |
18K11704
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
山田 美和 岩手大学, 農学部, 准教授 (90586398)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エチレングリコール / グリコール酸 / グリオキシル酸 / アルコール酸化酵素 / 進化分子工学 / TAT経路 |
研究実績の概要 |
産業廃棄物成分を原料とした微生物細胞による有用有機酸の集積型バイオプロセス構築を目指し、目的の反応系において3段階目の反応を触媒するアルコール酸化酵素が律速と考えられたことから、本年度は昨年度に引き続き、本酵素の活性向上変異体の作成に着手した。本酵素遺伝子全域にランダム変異を導入し、各変異体遺伝子を導入した組換え大腸菌の粗酵素液を用いて活性測定を行い、高活性変異体の探索を行った。その結果、本酵素のαサブユニットにおける300~400番目付近のアミノ酸領域は、低活性変異体および高活性変異体に共通して変異部位が集中しており、本酵素の活性に重要な領域であると示唆された。また、αサブユニットにおける372番目のセリンがプロリンに置換した変異(S372P)を有する変異酵素が、野生型酵素よりも約1.5倍活性が向上することを見出し、本変異が酵素の性質に与える影響ついても調査した。その結果、S372P変異酵素は、基質との親和性や最大反応速度の向上に寄与していることを明らかとした。また、本変異は、酵素の安定性向上にもわずかではあるが寄与している可能性が示唆された。 さらに、本研究では最終的にtwin-arginine translocation(TAT)シグナルを用いて、3種の酵素を大腸菌のペリプラズムに局在させ、酵素反応の効率化を目指している。本年度は、1段階目の反応を触媒するラクトアルデヒドレダクターゼ (FucO)および2段階目の反応を触媒するラクトアルデヒドデヒドロゲナーゼ(AldA)のN末端にTATシグナル配列を付加し、組換え大腸菌内における発現を試みた。その結果、FucOは、細胞質からわずかにペリプラズムへ輸送されていることが示唆された。一方で、AldAに関しては、TATシグナル配列を付加したことで、大幅に活性が低下することが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的物質の合成に関わる酵素反応において、ボトルネックとなる酵素の活性向上変異体を見出すことができた。昨年度は、見出した変異体の活性は野生型酵素に対して、約1.2~1.3倍であったが、今年度は、野生型酵素と比較して約1.5倍活性が向上した変異体を見い出すことに成功した。さらに、本年度は、活性向上変異体のアミノ酸変異が、酵素機能にどのような影響を及ぼしているかの詳細についての解析も達成できた。本成果は、応用のみでなく酵素学的な観点からも有意義な成果であると言える。 さらに、今年度は、本研究で目的としている酵素のペリプラズムへの局在についても検討することができた。結果としては、FucOはわずかにペリプラズムに移行しており、AldAは、ペリプラズムへの膜透過を促すためのリーダー配列を付加した影響で活性が大幅に低下することが確認された。膜透過を目指す2種の酵素のペリプラズムへの大幅な局在に成功はしなかったが、今年度は本手法の課題を洗い出すことができた。 よって、現在までの進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ペリプラズムへと移行させたい2種の酵素(FucO, AldA)について、膜透過を促すためのリーダー配列の種類を昨年度以外のものに変更し、目的酵素のペリプラズムへの局在を検討する。さらに、活性が向上したアルコール酸化酵素変異体を、膜透過用のリーダー配列を付加したFucOおよびAldAと共発現した組換え大腸菌の休止菌体を用いた反応によって、エチレングリコールを原料としたグリコール酸やグリオキシル酸の合成を検討する。この際には、合成されたグリコール酸やグリオキシル酸の回収方法も検討する予定である。 また、これらの研究と並行して、将来的なさらなるグリコール酸合成量の向上を目指し、FucOやAldAの高活性化変異体の作成も検討を進める予定である。具体的には、高活性変異体のアッセイ方法の構築と、実際にアッセイを稼働させて活性向上変異体の取得を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
有機酸類測定用のHPLC関連用品を今年度購入予定であったが、研究の進捗状況に合わせ、今年度は購入していなかった。さらに遺伝子実験操作試薬類についても今年度は予定したほど購入を行わなかった。これらの製品を来年度の実験では大量に使用する実験計画となったため、次年度使用額とした。
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