研究実績の概要 |
β-1,3-キシランは、紅藻類および緑藻類の細胞壁にのみ存在する海藻特有の多糖である。本研究は、海藻バイオマスから様々な有用化学品を生産するためのプラットフォームの構築を目的とする。無尽蔵に増殖し沿岸生態系の破壊を引き起こしている有害海藻である変異型イチイズタをバイオマス源として、その細胞壁の主要構成多糖であるβ-1,3-キシランから有用化学品を生産する新たな技術を開発する。 昨年度までに、耐熱性β-1,3-キシラン分解酵素群を用いた海藻バイオマスからの効率的キシロース生産技術を構築した。さらに、新たに細胞表層提示系に適した3種類の新規β-1,3-キシラン糖化酵素群をヒト腸内細菌のゲノム配列中から見出し、その酵素学的諸性質を明らかにした。 今年度は、好塩性細菌Halomonas elongataを物質生産宿主として、細胞表層工学技術による海藻多糖β-1,3-キシラン資化性の付与を試みた。H. elongataは好塩性のグラム陰性細菌であり、塩ストレス適応機構として「適合溶質」と称される機能性低分子化合物を菌体内に蓄積する。海藻バイオマスを収穫後に乾燥させた場合、塩濃度が高まる。そのため、好塩性細菌は海藻からの物質生産宿主に適している。細胞表層提示のアンカータンパク質にはH. elongata由来の外膜局在性リポタンパク質P5を用いた。前年度までに機能解析した3種類の酵素とP5との融合タンパク質をコードする遺伝子を構築し、三親接合と相同組換えにより目的遺伝子をH. elongataゲノムに導入した。その結果、目的遺伝子のH. elongataゲノムへの組込および融合タンパク質の酵素活性が確認された。細胞表層工学技術により創製したβ-1,3-キシラン資化性H. elongataを物質生産宿主とした海藻資源中の未利用糖質であるβ-1,3-キシランの有効利用技術につながる。
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