研究課題/領域番号 |
18K11715
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
清野 肇 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50281788)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ガリウム / リサイクル / 発光ダイオード / 高温 / 気化 |
研究実績の概要 |
令和2年度前半は所属機関の入構禁止等の処置のため研究を中断した.年度後半には以下の項目について研究を行った.概要とともに示す. (i) 容器の加熱法の検討:縦長の容器と縦型の電気炉を用いた.容器の向きと温度勾配の方向をそろえることで,温度,時間,雰囲気の酸素分圧等を変化差させて最適条件を調べた.酸化ガリウム析出場所の制御が容易になったが,酸化ガリウムの容器外への流出も認められた.加熱法としては縦型炉および容器は取り扱いなどの点からもすぐれていたので,今後はこの加熱法を用いて行うこととした. (ii)発光ダイオードの加熱による変化の調査:昨年度に引き続き行った.封入樹脂,および外装の樹脂は500℃付近で分解を始めた. 1000℃まで加熱すればほぼ内部の半導体部が露出することがわかった.1000℃以上では銅を主成分とする電極が融解して半導体部と癒着することがあった.よって電極が融解しない条件で加熱することが望ましいと考えられた. (iii)酸化物粉末と樹脂との反応性の検討:ポリエチレンテレフタラート(PET),ポリカーボネート(PC)の2種類の樹脂は照明器具や部品にしばしば含まれ,高温還元雰囲気でこれらの樹脂の熱分解物は酸化ガリウムなどの酸化物を還元させると考えられる.これら樹脂の還元能力を調べるため,熱重量測定装置を用いて還元反応の挙動を調査した.PCと酸化亜鉛を反応させると1000℃付近で,PCと酸化ガリウムと反応させると1050℃付近で還元が開始することを確認した.両場合とも,炭素を還元剤とするときより約100℃低い温度で還元された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年度前半は所属機関の入構禁止のため研究が進行せず,年度後半も入構制限のため通常より作業時間は少なく進行は遅れた.行った事項は,(i)容器の形状および加熱法の検討(ii)チップLEDの加熱実験, (iii) 樹脂による酸化物の還元反応の調査である. 容器材質の変更,マイクロ波による試料の加熱,スケールアップについては,利用時間などの制約から行わなかった. (i) 縦長で縦方向に温度勾配のある容器を用い形状を検討した.容器内の温度が低い箇所で酸化ガリウムが析出することを確認した.酸化ガリウムは一部が容器外へ微粉末状態で流出していると考えられた.このため微粉末の捕集用フィルターの装着が必要と考えられた. (ii) 試料には照明用白色LED,(OSRAM社製,以後チップLEDと略)を用いた.チップLEDを加熱すると,500℃から外装の樹脂が溶融し初め,800℃から封止樹脂も分解し,GaNを含む基板部分が露出し始めた.1000℃を超えると電極である銅が溶融し,容器や癒着してしまうことがわかった.可能であれば銅電極をあらかじめ分離することが望ましいと考えられた.800℃付近の加熱で樹脂部分が溶融やひび割れをし,樹脂由来部分と電極や半導体部分がわずかの力で分離できることがわかった.一度800℃まで加熱し,弱い粉砕で銅との選別のプロセスも検討する必要があると考えられた. (iii) ポリエチレンテレフタラート(PET),ポリカーボネート(PC)樹脂の還元能力を調べるため,熱重量測定装置を用いて調査した.PCと酸化亜鉛を加熱すると1000 ℃付近で酸化亜鉛が還元されることが明らかになった.PCと酸化ガリウムを反応させると酸化ガリウムが1050 ℃付近で還元されることを確認した.両反応とも炭素を還元剤とするときより約100℃低い温度で還元されることが明らかになった.
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今後の研究の推進方策 |
電気炉加熱時の問題点と対処:問題点としては電極材料(主に銅)の溶融,ガリウム金属までの還元とガリウム金属のるつぼ材料への浸透,気体透過もしくは粉末捕集用フィルターの脆化である. 電極材料(主に銅)の溶融に対しては,1000℃以下の温度で加熱し,その後粉砕により電極を物理的に分離させるプロセスを設ける,もしくは還元剤に樹脂を用いて処理温度を低下させて対処する.LEDは1000℃以下の熱処理で電極と半導体部分がある程度分離するので,軽度の粉砕処理によって電極部分を分離させるプロセスの追加が考えられる.また,樹脂(ポリエチレンテレフタラート,ポリカーボネート)を還元剤に用いると炭素を還元剤とする場合より,酸化ガリウムは100℃低い約1050℃で還元気化される.電極の主成分である銅の融点は約1080℃なので,銅の融点より低い温度で酸化ガリウムを還元気化させることが可能になると予想される.よって,還元剤には炭素粉末を基準とするが,樹脂を用いた実験も行う. ガリウム金属のるつぼ材料への浸透に対しては,石英ガラスを容器に用いて行う. 気体透過もしくは粉末捕集用フィルターの脆化に対しては,容器を縦長として,フィルターの設置位置の温度が下がるようにする. 容器の大型化とスケールアップ:容器を大型化し回収実験を行う.温度,酸素分圧の変化による回収率の変化を調べ,容器の大型化に伴う問題を検討し,回収率を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により年度前半は機関の入構禁止などの処置により,研究を中断した.年度後半も入構制限があり,研究を実施する時間が大幅に少なくなった.学生の卒業研究や修了研究との兼ね合いから,本課題の研究において当初計画通り進行させるには時間が足りなくなったため,昨年度の研究において精査すべきと考えられた点を中心に研究を実施した.このため,令和2年度は予算を使用することがほとんどなく,次年度使用額が生じた. 令和3年度は当初の予定通りの研究を進める予定である.
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